鳥籠-3
あたしは小さく溜め息をついた。
この女性みたく吟ちゃんを虜にしてしまいたい。
そして体ごと愛して欲しかった。
このベッドにうつぶせに寝転がっていると、吟ちゃんの匂いがした。あたしの大好きな匂い。
これは煙草の匂いだ。あの優しい顔でセブンスターだなんて、似合わないにも程があるわ。
おかしくなって、あたしは小さく笑った。
そしてしばらくそのまま言い様もない心地よさに包まれていた。
だけどあたしは困ったことに自分が欲情してしまっているのも感じていた。
この匂いをかいでいたら、いつも吟ちゃんが欲しくなってしまう。
嗚呼吟ちゃん。あたしを目茶苦茶にして、蕩けさせてしまって。
こんなにいい子にして待っているのに、ご褒美がキスだけなんてあんまりだわ。
鶫はこんなにもあなたを愛してるのよ。
いつも2人で寝ている大きなダブルベッド。そこはあたしがこの家で1番好きな場所だった。
窓から差し込む温かい陽光も手伝って、うとうとしてていたあたしはいつの間にか眠ってしまった。
朦朧としながら、耳元がほの温かいのを感じる。
あたしの好きな声がした。
「ただいま、鶫」
そして唇に何かが押し当てられた。
ただいま、つぐみ…
「!」
あたしは急に意識がはっきりして来て、目を開けた。
鼻先で吟ちゃんの顔が微笑んでいた。
「お帰りなさい…」
唇を指で触りながらあたしは言った。
時計は4時半をさしている。
こんな時間まであたしったら寝ていたのね。
キスで起こされるなんて、嬉しいけどなんだか気恥ずかしい。
「ずっと寝てたの?」
吟ちゃんはかばんを机に置いて、あたしの隣りに座った。
「うん、お昼ごろからずっと」
「あんまり昼寝したら夜眠れなくなっちゃうよ」
吟ちゃんが小さな子に話しかけるみたいに優しく言ってあたしの髪を撫でた。
吟ちゃんの触り方、何でこんなに気持ちいいのかしら…
あたしは堪らなくなって、唐突に、直球に訊いた。
「ねぇ吟ちゃん」
「ん?」
「あたし、吟ちゃんとエッチしたいの。だめ?」
吟ちゃんはちょっと驚いてあたしを見たあと、困った様な顔をした。そしてやっぱりこう言った。
「鶫、だめだ」
「…何で?」
あたしは不満を抑えつつ訊いた。
吟ちゃんはしばらく考える。
「そうだなぁ。鶫は僕の大事な鳥だから、抱けないんだよ」
意味深に微笑しながら言う。
何それ、と言おうとするあたしの唇を吟ちゃんが塞いだ。でも、柔らかい感触は、すぐに離れていく。
「これで我慢して。ね?」
大好きな優しい笑顔で囁かれて、あたしは上手く丸め込まれてしまった。