鳥籠-2
がつがつしてなくて、普通の男の人とかけ離れてて、神々しい感じすらする。
吟ちゃんのそんなところ、すごく好きだけど…、やはり寂しい。
一体、吟ちゃんは何の為にあたしを飼っているのだろう。
普通「女の子を飼っている」って聞いたら、もちろん体の関係もあるのよね、って思う。けど吟ちゃんは、
エッチするわけでもなく、ただ撫でたり、抱き締めたり、ご飯を作ったりするだけ。
それなら本物の鳥を飼った方がいいんじゃないかと思う。その方が食費も浮くだろうし。
だけどそんなことは言えない。言って「それもそうだね」なんて納得されて捨てられちゃったら困るから。
あたしってそんなに魅力に乏しいかしら、と思って、姿見で自分を眺めてみる。
程よく肉付きの良い、色白の肌に赤いスリップドレスがよく映える。
栗色の長い髪はさらさらしている。顔は子猫みたいにちょっとあどけなくて瞳が大きい。
自分で言うのもなんだけど、この体と顔が嫌いではない。
今までそこら中の男たちに散々持てはやされてきたことも自信の理由だった。
なのに、よりによって本気で愛している人には欲しがってもらえないとは皮肉だわ。
あたしはシャワーを浴びて、歯を磨いたあと、レースのついた白いワンピースに着替えた。
どこにも出かけないのだからお洒落してもしょうがないのかも知れないけれど、吟ちゃんの買ってくれた洋服は可愛らしく、着るだけで楽しい。
それにあたしは吟ちゃんに愛玩されてる身なんだから、身なりをなるべく可愛らしくしておくに越したことはない。
いかにも可憐なお嬢様、という感じの服ばかりがあたし用のクローゼットには並んでいる。吟ちゃんはあたしにこういう服が似合うと言う。自分でも、あたしにはこんな服が良く似合うと思っていた。
ふと時計を見ると10時だった。
あたしは吟ちゃんのベッドに座って、彼の本棚を見上げた。大きなこの本棚には、難しそうな数学や科学についての本もあれば、ポピュラーな小説もある。
暇なとき、吟ちゃんの帰りを待っているとき、あたしは大抵ここから本を取って読む。
この部屋にはテレビもあるしパソコンもある。
だけど本を読む方が好きだったから、それらには触れずにいた。吟ちゃんがテレビを見ているときに隣りに座って一緒に見ることはあるけど、それは単に吟ちゃんといたいから。
俗世から離れて生きていたいあたしとしては、テレビやパソコンはうざったいだけだった。
そんなわけで携帯電話も必要ない。
連絡を取りたい人なんていないもの。
吟ちゃんと連絡を取りたいときはこの家から吟ちゃんの携帯にかければ事足りる。
あたしはここ何日か読んでいる一冊の本を引っ張り出した。
ベッドに寝転がりながらそれを読み始める。
あたしは2時間程読んでいたけど、この本に出て来るある男の人が、言動といい性格といい吟ちゃんに似ているので、なんだか集中できなくなって来て途中でやめた。
その人は誰にでもいつも優しく、謙虚で禁欲的な男性だ。でもある時ひとりの魅力的な女性に出会って彼の人生は狂ってしまう。
彼は今までの穏やかな自分を捨て、全てをなげうってでもその女性を手に入れようとするのだ。