第一夜-1
むせ返るような血の臭い。
丑三つ時、男は赤く濡れて月明かりに輝く刃を一心に振るっていた。
パッと血飛沫が舞い、一瞬視界が赤く眩む。返り血で、漆黒の着物にところどころ紅く染みが出来た。男が僅かに眉を寄せる。
「…あーあ。この着物気に入ってたのに」
血に飢えた獣が瞳をギラつかせ、赤く濡れた刃をゆっくりと舐める。
笑みを浮かべるその姿は狂気的で―異常といってもなんらおかしくはないはずなのに、動作主がその男であるというだけでそれがどこか厭らしく、且つ美しくも感じてしまうのはその男―伊岡 華月の持つ嫌みなほどに整った貌のせいか。
「…つまんねぇ」
男の顔から楽し気な表情が消える。全てを破壊し尽くした彼にとって、その場所はもう何の面白みもなければ、何の興味も惹かれなかった。
「…アイツ等の方、見てみるか」
再び刃をゆっくりと口元へ運び、刃に付いた血を舐め取り小さく呟いて、華月は仲間達(なぜか勝手に自分を慕って着いてきた)の元へ戻る為に己で築いた死体の山に背を向けて歩きだした。