20 骨製の海底城 *性描写-5
ゼノよりはるかに設備の整ったシャワー室で湯を浴びながら、残滓を掻き出し、海草石鹸で全身を洗う。
備え付けタオルもあるし、温風で髪を乾かすのも、ここでは簡単だ。
すっかり清めた身体を男にし、水盤の部屋へ入った。
外に出るなら、行きたい場所をイメージし、水盤に飛び込めば良いだけだ。
呪文を唱え、青銅の水盤にゼノ城の自室が映る。
「……」
唇を噛み、水面スレスレで手を一振りした。
水面の景色が歪んで消え、ただ青銅の底が透ける。
足早に廊下を歩き、ミスカの部屋をノックした。
返事を待っていられず、勝手に扉を開けると、ミスカは寝台の上に胡坐をかいて座り込んでいた。
眠っているようでもなく、両目を閉じて何か集中しているらしい。
顔をしかめ、額にはびっしょり玉の汗が浮かんでいた。
「ミスカ……?」
予想外の姿に、一瞬だけ気を削がれかけた。
「ん?」
パチリと目を明けたミスカは、額の汗を袖で拭い、いつものお気楽な表情になる。
「なんだ、エリアスか。どうだった?」
「おかげさまで。あと数十年は大丈夫そうですよ」
皮肉をこめて、唇を吊り上げる。
「わざわざご心配してくれて、ありがとうございます」
「あ、聞いちゃった?ツァイロン主さま、意外とおしゃべりだな」
剣呑な視線を悠々うけながし、ミスカは悪戯坊主のような笑みを浮べた。
「んで、何か用?こんな時間に来てくれるとか、夜這いを期待していいわけ?」
「……ええ」
ミスカを睨んだまま、呪文を唱えた。
文官服の下でエリアスの体が、女性らしい丸みを帯び始め、すっかり変わった所で、靴を脱いで寝台に上がった。
「ミスカ、わたくしとセックスしましょう?」
「は?」
本当に言われるとは思っていなかったのだろう。
ポカンとした顔が、愉快でたまらない。
ペロリと唇を舐め、そのまま寝台へ押し倒した。
「貴方の気が済むまで、たっぷりご奉仕いたしますよ」
引きつった声がかすかに震えてしまうのを、どうしても抑えられない。
全てにおいて、ミスカはエリアスより優秀だ。
エリアスが勝てるものなど、セックスだけだろう。
昔はそれが、たった一つの特技だった。
ミスカさえいなければ、それで満足できていたのだ。
苦痛で仕方なかったけれど、それでも良かった。
それを、コイツが、余計な事をして、コイツは……!!コイツは……っ!!!!
目も眩みそうな怒りに、いっそこのまま殺してやりたくなる。
「ハハ……そりゃ嬉しいけどなぁ」
ほんの少し、ミスカが悲しそうな表情になった。
だがすぐに、いつものふざけた調子で笑う。
「遠慮しとくわ。お前が本気になったら、五分でイかされちまう」
素早く足元を払われ、あっという間に視界が反転した。
逆に押し倒されたエリアスを、ミスカがきつく抱き締める。
ミスカの表情は死角になって、見えなかった。
ゾっとするほど冷たい声で告げられる。
「悪いな、お前にご奉仕はされたくねーんだ。足腰立たなくなるまで犯られたくなけりゃ、さっさと帰れ」
***
「……」
昨夜の記憶を潰すように、エリアスは枕に強く顔を押し付けた。
これ以上考えたら、今日もまた眠れなくなる。