19 生まれついての大罪人-2
リディアから昼食を一緒にするよう熱心に誘われ、食後の茶を飲み終わってから、アレシュはいとまを告げる。
エリアスを伴い正門に向かうが、行き同様に、周囲の反応はどこかぎこちない。
魔眼の噂しか伝わらなかったゼノ城の人間と違い、王城の人間には、牢獄にいた頃のアレシュを記憶している者も多い。
地下牢で業火を放っていたアレシュの姿は、さぞ恐怖として焼き付いているのだろう。
そして望んでしたことではないといえ、アレシュは父母である前王と前王妃を焼き殺したのだ。
親殺しも君主殺しも大罪。
その両方を犯した大罪人が時期王となるのだから、複雑な思いは当然だ。
ふと、気配を感じて上を見上げると、バルコニーからリディアが手を振っていた。
メルキオレもその隣りで微笑んでいる。
「……」
一礼し、やりきれない感情をかみ殺した。
『何もかも、お前が産まれたせいだ』
いっそ、メルキオレとリディアから、そう罵られれば気が楽だったのかもしれない。
二人からすれば、アレシュが産まれたせいで父に殺されかけたのだ。
メルキオレは右腕を失い、リディアもドレスの下には酷い傷跡が残っている。
呪いさえかけられなければ、互いに愛し合い仲良く寄り添っている二人は、自分達の間に産まれた子を抱く事ができたかもしれない。
二人とも、アレシュを憎んでも仕方ないと思うのに……。
きびすを返し、無言で歩きながら、爪が手のひらに食い込むほどきつく拳を握っていた。
結局のところ、アレシュ自身が自分を許せないのだ。
カティヤを手離す覚悟に、最後の後押しをさせたのも、自身への嫌悪からだ。
これだけ周囲に不幸を撒き散らした自分だ。
幸せになれなくて当然、との思いもあった。
生まれついての大罪人。
振り上げた拳は降ろす場所がなく、誰にも責められない咎人として、王位継承者の立場にいる。
全身を生ぬるく絞め続ける罪悪感に、窒息しそうだ。