雨の日に-1
私には女よりも女らしい友達がいる。
いわゆる、オカマというやつだ。
彼…じゃない、彼女とは三ヶ月前にあることがきっかけで出会った。
雨の日の道端で、ダンボールの中に子猫が捨てられているのを見つけた。
私の住んでいるマンションはペットを飼うことが禁止されていているので、拾ってあげることができず、せめてもの情けに暖かい布や猫用ミルクを与えた。
翌日も様子が気になり見に行ってみると、まだ子猫がダンボールの中にいた。
弱っている様子はないが、このままにしておく訳にもいかない。
誰かが保健所に連れていく前に、わたしが助けてやらねばならない。
隠れて家で飼おうか…そう悩んでいるときだった。
「あら、捨て猫?」
金髪で長身の、男の声ではあるが女の口調である青年が声をかけてきた。
「え、ええ…そうなんです。布とミルクは与えたのですが、この雨の中放っておけなくて」
「ワタシが飼うわ」
迷いもなく、彼は断言した。
「えっ、いいんですか?」
「ええ。あらあら、貴方ずっとここにいたの?傘をさしててもびしょ濡れじゃないの」
そういえば、そんなに時間が経っていたのか…
「猫はわたしが連れていくから、貴方はお家に帰りなさい」
「あ、はい…へくしっ」
「大丈夫?良かっらワタシの家で暖まる?」
(男の人の家で!?…でもこの人は安心できそう…)
「は、はい…」
彼の住むアパートは歩いてすぐだった。
「あがって?あ、これタオルね」
「ありがとうございます…」
きちんと整理されていて、センスのある内装。
自分の部屋よりいい匂いがした。
「コーヒーと紅茶どっちがいい?」
「コーヒーで…」
「砂糖とミルク入れる?」
「あ、はい…」
子猫は嬉しそうによたよたと歩いている。
「ワタシの部屋、気に入ってくれるといいんだけれど」
「あ、あの、連絡先とか教えてもらえませんか?子猫の様子とか…気になるし」
「分かったわ。そういえばアナタ名前は?」
「安斉…真奈です」
「可愛い名前ね。ワタシは高西新。よろしくね」
しばらく話した。彼は楽しい人だった。
「では、おじゃましました。ありがとうございました」
彼は微笑みながら手を振って見送ってくれた。
それからちょくちょく、私は彼に連絡した。子猫の様子が気になるからだ。
時々、ペットが入れる喫茶店でお話をした。
「あの、新さんて、男性なんですか?女性なんですか?」
「ため口でいいわよ。どっちに見える?」
「見た目は完全に男性…」
「中身は乙女よ!」
「あははっ」
子猫は順調に育っていた。
名前は、キュー太にしたらしい。変わった名前だが、響きが好きだからそうしたそうだ。
私は、彼のことを彼女と思うことにした。女性として見ているからだ。
そして子猫よりも彼女と話すことが楽しみになっていた。
彼女と私はもう、友達だった。
三ヶ月が経った今日、久し振りに彼女の家にきた。
「新さんのお部屋来るの久し振り!」
「そうね、二回目だし、三ヶ月ぶりくらいかしら」
窓がガタガタと音を鳴らしている。
「酷い大雨になったね」
「ええ…キュー太が恐がらないといいんだけれど」
「さっき濡れちゃったから、シャワーあびてもいいかな?」
「いいわよ。わたしの服で良ければ貸すわ」
「ありがとう!」
「あーさっぱりしたー!」
「こら、なんて格好でいるの?ちゃんと下も履きなさい」
「新さんの服大きいからズボン履いたらだぼだぼになっちゃうんだもの…」
「悪かったわね!んもう…」
それからお酒を飲んだ。
あとは覚えていない…
「まったく…こんな格好で寝て…」
「んん…」
「こっちは一応男だってこと、忘れるなよ…?」
ちゅっ
起きるとお昼を過ぎていた。
今日が日曜日でよかった。
「新さん勝手に寝ちゃってごめん!」
「大丈夫よ。キュー太も貴方の横で一緒に眠ってたわ」
「ん?何か作ってるの?」
「今はアクセサリーを作ってるわ。ワタシの職業、一応デザイナーなのよ」
「へぇ初耳!凄いねぇ!」
だからけっこう派手めなのかな…?
「よし、そろそろ帰ろうかな」
「あ、じゃあこれを持っていきなさい。わたしとお揃いのブレスレッド。今作ったわ」
「わー!綺麗…ありがとう新さん」
「またきてちょうだいね。キュー太も喜ぶわ」
この日も彼女は微笑みながら手を振ってくれた。
首にキスマークがついてることに気がついたのは、その日の夜だった。