夢と記憶-6
ーーーーーーーーーーー
「ポロ!!」
呼ばれてハッと目が醒めた。
涙で霞んだ視界に茶色い髪と黄色の目の男が居る。
「ハッハッハッハッ」
浅く速い呼吸を繰り返すポロは、記憶が混濁して目の前の男が思い出せない。
「大丈夫、大丈夫だよ」
男はポロに触れないように注意しながら、汗で顔に張り付いた髪をそっと掻きあげた。
優しい声音と優しい仕草に、ポロの記憶が徐々に鮮明になっていく。
〈……ケイ…さん……?〉
浅く呼吸をしながらポロは目の前の男を呼んだ。
男……ケイは微笑んでゆっくり息を吐く。
「うん……大丈夫だよ。こっちが現実」
ケイは遠慮がちにポロの指をキュッと握り、夢から醒ましてやった。
「ゆっくり息して……大丈夫、ここに居るから」
大丈夫と何度も呟いてゆっくりとポロに触れていくケイ。
やっと手を握る所までくると、それを両手で包んで優しく優しく擦った。
〈ごめ…なさい……恐かった……でしょう?〉
ケイの様子からするに、ポロの夢は思念となって彼に届いたようだ。
しかも、体感までさせてしまったらしい。
あんなに痛くて恐ろしいものを伝えてしまい、ポロは申し訳なくなって謝る。
「凄っげぇ恐くて、無茶苦茶痛かった」
ポロを握ったケイの手は細かく震えている……彼は普通の家庭で幸せにぬくぬくと育ってきた男だ。
世の中の暗い部分を見せてしまい、ポロは益々申し訳なくなる。
「でもさ……1人で抱え込むより、俺みたいなのでも共有できたら苦痛は半分になるだろ?」
〈……ごめんなさい……〉
だからといってあんな恐ろしいものを共有させるなんて、とポロは哀しい顔でケイを見つめた。
「謝らなくて良いよ。俺は構わない……ポロが少しでも楽になるなら……全然、大丈夫」
ケイは握ったポロの手を額に当てて、もう一度小さく大丈夫と呟く。
〈……強がり…ですか?〉
「ははっ……バレた?情けないな……震えが止まんねぇ」
大の男が震える程の恐怖だった。
何をされるのか分からない不安、身体の中を暴れ回る得体の知れないモノ、そして治まる事の無い激痛。
あの後、ポロは火事場の馬鹿力でベルトを引き千切り、床に落ちて転がり回った。
口から次から次へと血が溢れ出て止めどなく流れる。
短いような長いような時間の後、気がつくと血溜まりの中に倒れていた。
痛みも無くなり、ベルトを引き千切った時に折れた筈の腕も元通りだった。
それから枷をつけられ、何処かに閉じ込められたまま何日か……何ヶ月かたった時、飼い主に「もう、要らない」と言われて腹を裂かれ、川に投げ捨てられた。
それがポロが知っている事。
ポロの身に起こった事だった。
その内容も送信され、ケイは顔をしかめる。