夢と記憶-13
「ゼイン?!」
カリーが非難の声をあげて、スランは少しだけ振り向く。
金属の正体はゼインのバスタードソード。
「説明しろ」
ゼインは左手で胸を掴んだまま、右手だけでバスタードソードを操っている。
その切っ先はカタカタと震え、ゼインの動揺を表していた。
「……俺は暗殺者だよ」
スランはバスタードソードを手で押しやり、立ち上がってゼインに身体ごと振り向く。
ゼインは荒い呼吸をしながらも、油断無くスランにバスタードソードを突きつけたままだ。
「ポロを飼っていた奴が雇い主だ。ポロの行動を把握して定期的にコイツで居場所を教えてた……ファンに来た事は黙ってたんだが……バレたんだろうな」
「何で黙ってた」
スランは肩をすくめて答える。
「お前らが面白かったから……かな?」
その結果がこれ……自分勝手な行動で相棒を失う事になった。
「……アイツは……お前の雇い主は生きているのか?」
ゼインの震える声にスランは怪訝な顔をする。
「生きてっから雇われたんだろ?」
「ああ……ああ……そうだ……そうだな……」
ゼインはバスタードソードを下ろして、左手で醜いであろう顔を隠した。
指の隙間から酷く怯えたカリーの姿が見えて、ゼインは喉を鳴らして笑う。
(……限界だ……)
どれだけ恐ろしい顔をしているのか……彼女が自分に向けている恐怖に、ゼインの心がスゥッと冷えた。
「コイツに何が起きた?」
スランの問いかけにゼインは顔から手を離して答える。
「奴の血液だ。奴は人間じゃない。今、言えるのはそれだけだ」
これ以上は知らない方が良い。
「俺は山を下りる……お前らは好きにしろ」
パーティーは解散だ、と言ってゼインは自分の荷物と魔草の入った麻袋を取りに行き、それを担いで歩きだす。
「……ゼ……」
直ぐ横を通り過ぎたゼインに呼びかけようとしたカリーだったが、上手く声が出なかった。
(追いかけなきゃ……でも……)
足が震えている……立ってるのがやっとだ。
「カリオペ」
スランの声にカリーはビクリとして振り向く。
「追いかけろ。側に居てやれ」
スランの言葉にカリーは視線をさ迷わせてからグッと顔を上げた。
震える足をパシンと叩いたカリーは、荷物を拾ってゼインの後を追いかける。
後ろからついてくる足音を聞いたゼインは、一瞬驚いてから少し笑う。
(……変な奴……)
あれだけ怯えておきながらまだ着いてくるか。
ゼインは立ち止まってカリーに振り向いた。
困っていながらも笑っているゼインの顔を見て、カリーの足の震えが止まる。
ゼインが差し出した手を、カリーはしっかりと掴んだ。
そんな2人を見ていたスランは、目を閉じて空に顔を向ける。
高い空を旋回する相棒の優雅な姿が、スランの瞼には焼き付いていた。