夢と記憶-12
「悪い。援護頼む」
いじけたカリーを無視したスランは、そう言ってその場から離れる。
「んもぅ!手ぇ出すなって言ったり援護しろって言ったり!!後でちゃんと説明してよね!」
カリーは頬を膨らませてスランの後を追いかけ、彼を狙う触手を次々と弾いていった。
得意のジャンプ力を駆使したスランの動きに、カリーは的確についてくる。
(……動き易い……)
スランがどう動くか、自分がどうすれば動き易いかをしっかり考えている。
普通、暗殺者は単独行動なので援護とかは苦手な筈だ。
だから、頼む前に「悪い」と謝ったのだ。
なのにカリーの援護は素晴らしいのひと言……さすが『赤眼のカリオペ』だ。
スランの所属する暗殺ギルド『ログ』は、カリーの居た『シグナー』と違って仲間意識が希薄。
隙あらば足を掬おうとしてくるので、ギルド内の人間を信用した事は無い。
まあ、それはお互い様なので全然構わないのだが……だから、信じて行動を共に出来たのは、卵から育てたこの鷹だけだった。
名前さえつけていないが、スランの唯一の家族。
「……ゴメンな……」
鷹の背中に乗ったスランは、左手で翼を掴んで鷹に囁く。
鷹はくちばしから触手を吐き出しながら、目だけでスランを見た。
その目が、そっと閉じられた。
ズブ
ショートソードに伝わる、肉を刺す感触にスランはギリッと奥歯を噛む。
四方八方にのたうっていた触手が、ぎゅるりと絡まってひとつの塊となった。
「スラン!!」
さすがにそれは防げないと、カリーが警告の声をあげる。
コツッ
肉とは違う手応えを感じ、スランは息を止めて一気にショートソードを柄まで刺した。
キシャアアァァァッ
ぶるぶるっと激しく震えた触手が狂ったように暴れだす。
絡まってひとつになっていた触手がほどけて、それぞれあさっての方向へと伸びていった。
ボコボコと鷹の身体が不自然に膨れていく。
「スラン!!」
カリーが悲鳴をあげたと同時にスランは鷹の背中から跳び下りた。
その瞬間、ボコンと鈍い音がしてビシャビシャと血にまみれた肉片が雨のように降り注ぐ。
地面を着地したスランは、赤い雨を浴びながら鷹に振り向いた。
そこには鷹は居らず、大量の血と肉片と羽毛があった。
スランは片膝をついて地面に落ちていた血まみれの羽を手に取り、それをじっと見つめる。
カシャ
そのスランの右肩に冷たい金属が当てられた。