夢と記憶-11
「ゼイン」
その皮袋をゼインの口元に当ててやると、彼はその中の空気を貪る。
「ヒュ……」
喉が渇いて内側に張り付いているような感覚……吸っても吸っても空気が肺に入らない。
嫌な汗が全身から吹き出して吐きそうなぐらい気持ち悪いし、激しく鳴る心臓が耳元にあるようでうるさい。
そんな状態にあるクセに、ゼインは鷹を……というか、赤黒い触手を睨みつけていた。
それはカリーが見た事の無い血走った目。
嫌悪、憎悪、そして殺意。
生きる事に純粋で例え他人だろうとも生きる意志のある人間は助ける。
そんな男にこんな暗い目が出来るなんて……カリーの背中にゾクリと寒気が走った。
「ゼイ…ン?」
これは本当にゼインなのか?
カリーの大好きな、悪戯っ子の笑顔が可愛いゼインなのだろうか?
カリーには別人に思えて仕方無かった。
「カ…リー」
小さい声で呟いたゼインの掠れた声に、カリーはビクッと大袈裟に驚く。
それに気付いたゼインはハッとした後、一瞬、自嘲気味に笑って表情を引き締めた。
「カリー、スランに伝えてくれ。触手は無限だから本体を叩け、本体は体内に居る……多分背中の翼の付け根辺りだ……それと……」
「そ、それと?」
淡々と話すゼインに、何故詳しいのか疑問に思いつつカリーは言葉の続きを待った。
「……相棒は……諦めろ……」
絞り出すようなゼインの声。
ゼインの口から命を諦めろという言葉が出るなんて……カリーはグッと歯を喰いしばり、分かったと言ってスランの所へ走る。
ゼインの側から離れる事が出来て、ホッとしている自分に……カリーはズキリと胸の痛みを感じた。
「スラン!!」
「!手ぇ出すなっつったろ?!」
「違うわよ!ゼインから伝言!!」
触手を踏みつけたカリーはスランの背後に立って背中を合わせる。
「何だ?」
「本体を叩け。本体は体内。背中の翼の付け根辺り。鷹は諦めろ」
簡単に伝えたカリーは腰の後ろに差してあったトンファーを抜いて、迫ってきた触手を弾いた。
「チビが?……成る程ね」
雇主の所に居たらしいゼイン……多分、鷹の身に何が起こったのか分かったのだろう。
その彼が諦めろと言ったのだ……やはり、鷹を助ける方法は無いようだ。
「成る程って何よぅ」
触手の正体が分かっているらしいゼイン、ゼインが正体を知っている事に納得しているスラン。
自分だけ何も知らない、とカリーはいじけた。