秘密-7
静まり返った空き教室に、授業終了を告げるチャイムが鳴り響いた。
「教室、戻ろっか」
私がニッコリ笑うと、二人も笑顔で頷く。
「倫平、次は何?」
「数学だよ。あー、このまま帰りてぇ……。沙織達は?」
大山くんは大きくのびをして私達を見る。
「うちらは体育だよね!」
「いいなあ〜」
私達がそのようなくだらない話で笑いながら廊下を歩いていると、窓際で土橋くんが一人で立っている姿が見える。
ズボンのポケットに手を突っ込んでやや俯いている姿は少し淋しげに見えて、休み時間の騒がしい廊下でポツンと浮いていた。
彼は私達に気付くと、少し不機嫌そうな顔でこちらに向かってきた。
「……どこに行ってたんだよ」
多分、電話が終わって私達の所に戻ったけど、誰もいなかったから、そのことでむくれているのだろう。
大山くんはニヤニヤしながら彼の肩に肘を乗せ、
「授業がだるかったから三人でサボってたんだ。なあ」
と、私達に同意を求めるように笑いかけた。
「……んだよ、俺だけのけものにしやがって」
土橋くんは拗ねたように口を尖らせた。
その姿がやけに可愛く見えて、私は
「淋しかった?」
と、ニヤニヤして顔を覗き込んだ。
すると、土橋くんは少し顔を赤らめてからプイッと顔を背けた。
「今度はちゃんと俺も誘えよ」
舌打ちしながらボソッと呟いたその言葉に私は目を細め、
「わかった」
と頷く。
これでいい。
土橋くんに彼女がいても、私はこうして友達として彼の隣で笑っていられるんだから、十分過ぎるほど贅沢なんだ。
それでもすぐに割り切ることはできないし、郁美の存在を思い出すたびにイラついたり、悲しくなったりするとは思う。
でも友達として彼の隣にいられるなら、いつか乗り越えていけると、このときは本気でそう思っていた。