秘密-5
「私の理想は高いよ」
なんとなく紹介話が実現されそうな雰囲気だったので、そうそう有り得ないタイプを言えばこの話は流れると思って、そう前置きした。
「背が高くて、細身で、顔はかっこいいって言うよりかわいい感じで……」
私が次々理想をあげて言っても、二人はニコニコしながら相槌を打ってくる。
「おしゃれで頭が良くて運動神経がよくて……」
大山くんが一向に困った顔をしないので、まだまだ無理難題を言わないといけない。
「性格は優しくて、面白くて、マメで、気が利いて、私のワガママをなんでも聞いてくれて……」
ここまで言っても二人は困った顔をしない。
こんな理想の人なんているわけないのに。
やがてネタ切れになってきた私は、恋愛経験のない想像力をフルに活用して、話し続けた。
「……私のことよく構ってくれて、バカなことばかり言って私のこと笑わせてくれて、昼休み私が一人でいると遊びにきてくれて……」
おや、二人の表情が固まった。あと少しかな?
「外見はちょっと怖いけど、実は優しくて友達思いで、似合わないのに甘いものが好きで、いつも友達とバカ騒ぎしててうるさくて、子供みたいにしょうもないイタズラばっかりしてきて……」
おかしいや、二人の姿がぼやけて、声がうまく出せない。
「石澤さん……」
「これが……私の理想のタイプ」
恋愛経験のない私の頭に浮かんだのは先ほど挙げた理想とはほど遠い一人の男の姿だった。
「……理想高いでしょ」
へへへと笑ったつもりなのに、いつの間にか私の目からはボロボロと涙が溢れていた。
「桃子ぉ……!」
沙織が私を再びギュッと抱きしめる。
沙織の身体は小さく震えて鼻をすする音が聞こえてきた。
……そうか。私、やっとわかったんだ。
「沙織……。私、自分の気持ちにやっと気付いたよ。いつの間にか土橋くんのこと、好きになってたみたい。……もう今さら遅いんだけど」
勇気を出してそう言うと、さらに涙がブワッと溢れ出した。
アイツの隣にいるのは、郁美なんだ。
沙織は私を抱きしめる腕に更に力を込めていた。
気持ちを吐き出して楽になったけど、現実を受け入れるのは少し辛く、こんな自分を見られることが恥ずかしくてたまらない。
でも、溢れ出した涙はもうどうにも止めようがなく、すがりつくように沙織の肩に顔をうずめて泣き出した。
沙織も泣いているくせに、子供をあやすように優しく私の背中をポンポンと叩き続けてくれた。
大山くんは、何も言わず私達が気が済むまで泣いているのをジッと下を向いて待っていた。
その時に、私に黙ってポケットティッシュを渡してくれた彼の優しさも、更に涙腺を刺激した。