秘密-4
沙織はギュッと私を包み込むように抱きしめてきた。
柔らかい髪の毛が鼻に触れてやけにくすぐったい。
「桃子……。あたしは絶対桃子の味方だからね」
おそらく沙織は私の言葉に納得してない。
きっと今でも、私が土橋くんを好きだと思っているんだ。
沙織は誤解したままだけど、震えた声と抱きしめてくれた温もりがただただ嬉しくて、私は、
「ありがとう」
と微笑み、泣き止まない子供をなだめるように、その華奢な背中に手を回してポンポンと軽く叩いた。
しばらくそうして沙織が落ち着くと、ゆっくり身体を離してお互い照れくさそうに笑った。
「……ところで授業どうする?」
大山くんの言葉に、私達はハッと我に返る。
いつの間にか廊下の騒がしさは跡形もなくなっていて、耳をすますと先生が授業を進めている声がかすかに響いている。
「オレさ、英語だったんだよな。今行っても怒られるから、今日はサボる。沙織達もそうしようぜ」
大山くんは舌を出して、そのまま床に寝転び始めた。
沙織はそんな彼を見て、いたずらっぽく笑ってから、
「ウチらもサボるの二回目だね」
と私の顔を覗き込んだ。
「あれ? いつの間にそんなことしてたの?」
大山くんがキョトンとした瞳で、沙織の顔を不思議そうに見上げる。
「こないだ、ちょっとね。あたしの恋愛相談してたんだ」
沙織がニッと笑って言うと、今度は勢いよくガバッと身体を起き上がらせて、
「何!? オレになんか不満とかあるの?」
と、沙織の両肩を掴んで身体をユサユサと揺すった。
「そんなわけないじゃん。沙織は、いつものろけ話ばかりなんだから」
私がニヤニヤしながら大山くんを見ると、ようやくホッとした顔になって沙織の両肩からそっと手を離し、
「……よかったあ」
と、大きく息を吐いた。
沙織はそんな彼の様子がおかしかったみたいで、肩を震わせ笑っている。
もう、大山くんは心配性だなあ。
私は、そんな二人の様子がとても微笑ましくなり、
「いいなあ、私も彼氏欲しくなった」
と、大きくのびをしながら言った。
多分、私の言葉が意外だったのだろう。
二人は目を丸くして私の顔をじっと見た。
それでも私がいくらか前向きな発言したのが嬉しかったのか、一瞬固まったままの二人の顔は一気にパアッと明るい顔になっていった。
「よし、じゃあオレ誰か紹介しようか?」
大山くんが私の目の前に身を乗り出してきた。
「大山くん、気早すぎ」
「別にいいじゃん。石澤さんがそんなこと言うなんて珍しいから嬉しくてさ」
大山くんの勢いに私は少し怯んでしまった。
ゲッ、もしかして本気にしてる?
「でも、私にも理想ってのがあるから……」
「じゃあどんな人がタイプなのか教えてよ! とりあえず言うだけならタダなんだし」
大山くんだけでなく、いつの間にか沙織まで目を輝かせて私を見つめている。
私は二人の勢いにたじろぎつつ、迂闊なこと言わなきゃ良かったな、と少し後悔した。