進め!-16
天才科学者に作られたという自信を持っているメアとしては自身の知識が足りないとい
うことに驚きを隠せないでいるようだ。
天才科学者が作った天才……とまではいかなくとも、ある程度の知識指数の高いロボッ
トであるはずの自分の知識が間違っていると言われているのだ。驚きもするだろう。
「竹内春樹。ワタシの知識が間違っているというのは事実なのですか? このままでは射
精出来ないというのですか?」
一目で見てとれるほど、狼狽した表情で春樹に問いかける。
「いや、完全に間違っているというわけではなくてですね……」
「何が! 何が違うというのですか!? 竹内春樹、早く教えなさい!」
「い、痛い! 痛いよメアさん! 握ってる! 僕の大事なモノを握ってるから!」
ぎゅーと、今にも握りつぶさんといった強さで男性器を握るメア。
「早く! 早く教えなさい!」
軽く暴走した様子のメア。春樹の声なぞ聞こえていないといった様子で男性器を握っている。
「教えます! 教えますからその握っているモノを離してぇぇぇぇぇぇぇっ!」
春樹の悲痛な叫びが木霊した。
「――と、すいません。少々取り乱してしまったようですね」
こほん、と小さく咳払いをして落ち着きを取り戻したことをアピールする。
「僕からすればまだ落ち着いていないと思うんですけどね」
依然、春樹の男性器はメアに握られたままなのである。先ほどのように強く握られてい
るわけではないが、それでも急所を他人に握られたままというのは落ち着かない。
またいつ、先ほどと同じようなことを起きるのか。それを想像しただけで肝が冷える。
「それで竹内春樹。ワタシの知識の何処が間違っているのか、きっちりと説明をしてもらいますよ」
「あ、はい。それはいいんですけど、出来ればその手に握っているモノを離してもらえると助かるのですが……」
「…………」
「はうぁっ!?」
無言で男性器を掴む手に力を入れる。
どうやら、御託はいいから早く話せと言っているようだ。
「うぅ……なんでこんなことに……」
「……」
「は、話します! 話しますから手に力を入れるのは止めてください!」
涙目になりながら懇願をする春樹。涙を浮かべている――これだけを切り取るのならば、
ある意味ではお仕置きは成功しているのかもしれない。
メアにとっては本当の意味でのお仕置きは終わっていないのだが。それどころか始まってすらいない。
「あ、あのですね……優しく撫でるのも確かに気持ちいいんですけど、同じ刺激ばかりだ
と飽きると言いますか、刺激に緩急が欲しいと言いますか……あと、同じところばかり責
められるというのも単調すぎると言いますかね……えっと、その聞いてます?」
「ええ。聞いていますよ。つまりワタシのお仕置きはツマラナイということですよね?
単調すぎて面白みに欠けると、そう言いたいのですね?」
自身のお仕置きを全否定され暗い表情を浮かべる。
傍から見ると落ち込んでいるのかと思うのだが、春樹にはそうは見えないようだ。
(こ、怖い! メアさんのこの顔怖い! 絶対、怖いこと考えてる顔だってこれ。
だって、その証拠にさっきよりも手に力入ってるし。てか、少し痛いんですけど……)
泣き言を言いながらもそれを表に出していない春樹。今の彼女に何かを言うのは得策と
は思えないからこその判断なのだろう。
「ワタシのお仕置きが全否定されるとは……このままではマスターに会わせる顔がありません」
真剣に落ち込んでいる様子のメア。
「このままではワタシの存在意義が……存在意義が……かくなるうえは――竹内春樹を殺してしまって……」
「ちょっ、メアさん!? こ、殺すのはさすがにどうかと思うな。博士もそんな命令してないだろうし」
沈黙を保とうとしていたが、メアのあまりにも不穏すぎる言葉につい口を挟んでしまう。
「だ、大丈夫だよ! メアさんは居るだけでいいんだよ!」
そして、言ってはいけない言葉を言ってしまう。
「なんだったら、僕がエッチなこと教えてあげるし」
「……本当ですか?」
「う、うん。僕にエッチなことを教えてもらって、その知識で僕にエッチなことをすれば
いいんじゃないかな?」
「竹内春樹に教えてもらい。それを竹内春樹で実行する……」
「う、うん! そうしたらメアさんの目的も果たせていいんじゃないかな!」
言葉を発した時点で、やってしまったという思いはあったが、ここまできてしまったら
引き返すことは出来ない。この先に罠があると分かっていても進むしかない。
そんな状態に春樹は追い込まれてしまっているのだ。