契約A-9
「ミルル?」
「あ、お帰りなさいっ。修一さんっ」
という声で迎えられた彼。
円卓の上には二人分の食事が用意されていた。
ミルルの料理スキルは目を見張るものがあり、もう野菜炒め程度なら一人で作れるようにまでなっている。
次はパソコンの使い方を教えろと五月蝿く、インターネットでレシピや調理法を勉強したいらしい。
それに比べクランは
「なんやねん。今日も一人かいな」
とか言いながらベッドにうつ伏せになってテレビを見腐っている。
「お生憎だったな」
修一は適当に荷物を置くと、ミルルの頭にポンっと手を置いた。
「お前は偉いな。誰かと違って」
「ん?」
向けられたら視線に、修一は慌てて取り繕う。
「それで、何か用があったんじゃないんですか?」
「あ、そうだ」
修一はドアを開いて早々ミルルに声を掛けた理由を思い出した。
「催眠術って男にも使えるのか?」
そう。
学校を丸々ハーレムにするためには男は邪魔でしかないのだ。
「はいっ。大丈夫ですよ?」
「なんや、そっちの気もあるかいな」
ベッドから降りたクランはからかうようにニヤニヤ笑う。
「変態鬼畜では飽きたらず、ケツまで掘っちゃうつもりですか?」
「んなわけねーだろ!」
この姉妹の思考回路はいつまでも謎である。
「何でもありなんだな……」
「ちゃうちゃう。論理的に言うとやなぁ、催淫は性別問うけど催眠は性別問わんのや」
「あー、成る程……」
妙に納得した修一は改めてミルルに視線を向けた。
「……で? 服はどうした?」
「ふふふ……」
今のミルルは白い布切れだけを纏った破廉恥な姿で、コウモリのような黒い羽と、先端が三角形になった尻尾とを生やしているまさに魔族の恰好だ。
「張り切ってお仕事に行ってきますっ!」
「仕事?」
修一の疑問を余所にミルルはお得意のやる気ポーズを見せ、忽然と消えた。
「上手くいったらええねんけどなぁ……」
クランは円卓に頬杖を付き、憂いを思わせる大きな溜め息を吐いた
「仕事って?」
「転生のための子作りサポートや」
「……は? 子作りのサポート?」
「一から説明したろか?」
円卓に向かって座り込む修一に、クランはフォーク片手に語り始めた。