契約A-8
折角の大きな瞳を伏せ、目線は無意味に右へ流れていた。
「友美……」
その言葉では、彼女は視界に修一を捕らえようとしない。
ただ消え入りそうな声で
「何?」
と返しただけだった。
「その……俺、初めてでさ、その……よく解らないんだ……自分が……」
友美は顔を上げた。
修一の言おうとしていることを知ろうとしているのだろう。
その眼差しは責めるでも認めるでもなく、修一の言葉を待っている。
「だから、あの……色んなコとエッチなことをしたいけど、友美とはもっと他のこともしたいって言うか……」
「片桐君って正直なんだね。欲に素直って感じ」
彼女は笑っていた。
アタックしまくってるのに、その相手は躊躇いながらも色んな女性と肉体関係を持ちたいと言う。
そんな男性を友美は知らない。
普通は隠したいであろうことを言ってのける修一を、彼女は正直な奴だと認識したのだった。
「正直?」
「うんっ。バカ正直」
今度は首を傾け、ツインテールをサラリと揺らす。
その仕草に含まれる微笑みが、修一を掴んで離さない。
「そして私は、ただのバカ……」
「いや、お前はめっちゃ頭良いしデキる女だし、バカと有り得ない……」
「あ……そういう意味じゃないんだけど、ここは喜んでいいとこなのかな?」
「さぁ……」
そして二人は揃って苦笑した。
「初めてなんだ? そういう気持ちになるの……」
「え? あ、あぁ……」
「じゃあさ、その気持ちの正体が解ったら教えてくれる? 私、待ってるから」
「え、あ、その……はい……」
修一は後ろめたさをひしひしと感じながら、改まったように正座した。
そして、差し出された小指に小指を絡めたのだった。
帰路、修一悩んでいた。
友美へ気持ちを伝えるか否か……何れにせよ、クラスハーレム化は止めるつもりは彼にはない。
寧ろ、学校丸ごと支配下に置くことも苦ではないのだ。
学校にいる教師は全員既に修一の支配下にあるのである。
友美のことは気に掛かるものの、今その気持ちを認めると見えてきたハーレム化が遠退いてしまう。
そう思い、修一は純粋な気持ちをうやむやにして夢の城を築くことに全力を注ぐことにしたのだった。
そのためには……。