14 雌雄の身体*性描写-1
夜中だけあり、城の共同浴場は無人だった。
広い浴槽も湯が抜かれ、きちんと磨かれた大理石がつやつや輝いている。
エリアスは服を脱ぎ、静まり返った浴場に入った。
腰にタオルを巻いただけの裸身は、細身だが、しっかりと青年の体だ。
床の美しいモザイクタイルが、素足にヒヤリと心地よい。
(荒療治でしたが、アレシュさまも少しは頭が冷えたようですね)
退室間際の王子を思い出し、小さく安堵のため息をつく。何かと手のかかる坊っちゃんだが、決して嫌いではない。
扉に施錠と防音の魔法をかけてから、浴槽の縁に両手をつき、再び呪文を唱える。空の浴槽は瞬く間に、程よい温水で満たされた。
空気中の水分を凝縮させ、更に火の精霊で温める、ごく初歩的な魔法だ。
しかし、続け唱えた呪文は、魔法大国ストシェーダでさえ使える者は少ない通信魔法だった。
湯面にうつるエリアスの上体がぐにゃりと歪み、襟元の詰まった大陸東風の装いの青年へ変わる。
エリアスと同年齢くらいで、青みがかった長い銀髪を一本の太い三つ編みにし、肩から前に垂らしている。
こちらも整った目鼻だちだが、エリアスのように中性的で落ち着いた美ではなく、いかにも軽薄そうな若者だった。
青年はちょうど、丼から熱々の麺を啜っている最中だった。刺繍入りの袖と箸を振り回す。
「ほっ、エリアふ、ちほ待っへ……」
「ミスカ、待っていますから。飲み込んでからしゃべって下さい」
こめかみを抑え、エリアスは苦言した。
なぜミスカにかける時は、いつもこうタイミングが悪いのだろう。
通信魔法は、かける相手の状態がわからないのが難点。
マズい時には無視できるのに、ミスカはよほどの場合意外は拒否しない。
一度など、女を抱きながら出られ、エリアスの方から即座に切った。
「ん〜……お待たせ」
食べかけの夜食を横に押しやり、ミスカが手を伸ばす。
エリアスも湯の中へ手を差し入れ、繋いだ手を引き揚げた。
「……オイ、なんで半分だけ?」
だが、腰の辺りまで出たところで、エリアスはさっと手を離してしまう。
「歩く猥褻物から自衛するのは、当然でしょう?」
微笑みながら、にこやかに断言する。
「酷っ!」
ミスカが鼻にシワを寄せた。
「たまにはヤらせてくれても良いじゃねーか。俺が雌雄同体なら、人生二倍楽しむぜ?」
「貴方はそのままでも、人の十倍は楽しんでいますよ」
失礼極まりない同僚に一瞥をくれ、エリアスは小さく特別な呪文を詠唱する。
意識を集中し、骨格を、内臓を、筋肉を、女のそれへと変えていく。
ほどなく湯煙の中、薄桃色を頂点にした重たげな美乳が、惜しげもなく晒された。
腰周りは薄いタオルで隠れているが、短い股下には太ももが作る悩ましい逆三角形の隙間がチラ覗き、色気を倍増させていた。
中性的な顔はそのままだが、かすかに吊り上げた唇が、背筋を震わせるほどの妖艶さをかもし出している。
「おま……っ、それで生殺しとか、酷すぎるだろ!」
服が濡れるのも構わず、バシャバシャ湯を叩きとばし、ミスカが抗議する。
「さっさと終わらせましょう?わたくしは早く身体を洗いたいのです」
実際、ミスカを引き上げられるだけの水面積で、しかも城内で人目につかない場所は、自然と夜中の風呂場に限定される。
一刻も早く女の身体の中を洗いたいのも事実だ。
だが勿論、この状況は意地悪のほうが大きい。
ただでさえ不快な性交の後、ミスカの顔を見るだけで不機嫌は最高潮だ。
たっぷりした胸を揺らし、柳腰の見事な曲線を描く女体を見せ付けるように一歩踏み出し、ミスカの首を引き寄せる。
額を合わせ、薬師から仕入れたばかりの『知識』を共有する。
全て流れ込むと、ミスカは金色の目を開けた。
「ちょっ!?中出しさせてやるとか、サービスしすぎ!」
「……そこはどうでも宜しいでしょう」
どうやら聞きだした時の情景まで、移ってしまったらしい。
「保存しておいたアレシュ王子の血から、あんな薬を造るなんて、なかなか興味深いですよ。お礼くらいしませんと」
「相変わらず律儀なこった。主さま達にゃ関係なさそうな薬なのによ」
「本来は、王子の御用で探った情報ですからね」