14 雌雄の身体*性描写-4
「はぁ、はぁぁ、ぁ……」
溜まっていた快楽の量が大きいだけに、開放の反動は深く、エリアスの意識は半ば混濁していた。
蕩けきった唇からは唾液が垂れ、甘い吐息が切れ切れに溶け出している。
意識を引き戻したのは、重ねられた唇だった。
労わるように優しく口内を愛撫しながら、乱れた髪もそっと撫でられる。
両腕が背中に滑り、大切そうに抱きしめられた。
快楽の余韻に煮えていた脳が急速に冷え、エリアスはきつく眉をひそめる。
――こういう所が、嫌だ。
ミスカは最初から優秀に造られた。
玩具で終わる事をよしとせず、必死に這い上がったエリアスを見下し弄ぶのは仕方ない。
でも、単なる性欲処理なら、手間隙かけてエリアスを感じさせたりせず、自分だけ楽しめばいい。
自分の性技を披露したいだけなら、こんな風に抱き締める必要なんてないはずだ。
何度剣突を喰らわせても、こうやって絡んでくる。
本当に、無神経で残酷で嫌な男だ。
ミスカがせめて享楽的に生きたいなら良いだろう。でも、こちらを巻き込まないで欲しい。
自由に生きれるはずもないのに、自由を謳歌するフリをし、恋愛ごっこを気楽に楽しむ。
ミスカのような生き方は、エリアスには出来ない。
(なにもかも……)
この身には無縁なものと割り切って一線置くからこそ、平然と流せるのだ。
お手軽な偽りの幸せでも、うっかりそれに溺れてしまったら、取り返しのつかない深みに嵌りそうで怖い。
片手でミスカの首を抱き寄せ、自分からも積極的に舌を絡めた。技巧を駆使する事に専念し、ズキリと心臓を刺す痛みをごまかす。
「――へぇ、今日はまた珍しいな」
ようやく口を離すと、ミスカが驚いたように目を見開いた。
機嫌良さそうに口元を緩める男の襟元を、片手でギリギリ掴みあげ、ニッコリ微笑んだ。
「ミスカ、わたくしは忍耐強い性質です。むやみな怒りは非効率ですから」
不穏な揺らめきを感じたミスカが、引きつった笑みを浮かべる。
「へぇ〜、そりゃ良かった。じゃ、俺はそろそろ夜食に戻……」
「ええ。邪魔してすみません。でも、ご安心を」
ミスカの後ろで、気付かれぬよう宙をなぞっていたエリアスの指が、魔方陣を完成させる。
「当分!会いませんから!」
青白い閃光が、浴場中に炸裂した。
エリアスの作った雷が、大量の湯を全て分解し大気に戻す。
純粋な水なら上手くいかないが、城の浴場にも岩塩ランプが多数置かれている。
犯されている間に、湯には十分な塩気が混じっていた。
「うおっ!?」
寸前で襟首を離してやったから、間一髪でミスカは湯に飛び込めたが、嫌な匂いが立ち込めているのは、長い三つ編みの先が焦げたからだろう。
カラッポの浴槽に倒れこみ、肩で大きく息をする。
立ち上がり、身震いした。
注ぎ込まれた精が、内腿に白い筋をつけて流れ落ちていく。
(……洗った意味、まるで無いじゃありませんか)
ため息をつき、浴槽をもう一度湯で満たした。