エピローグ-1
まんまと堕ちた。
その男にとって寝取り寝取られはある種の儀式的な要素を占めていた。研究と言ってもいい。
これは女の性質、性格の判断を誤ると上手くいかない。長い時間をかけて地道にターゲットの性質を読むことが必要不可欠だ。
故に知識と経験と緻密な計画が無ければ成功は無い。
谷川瑞穂。
その男が何十人も抱いた女の中で最も美しい女。その美しい女を動物にすることを男は目的としていた。
細工は粒々。あのツマラナイ男と親友となるまでにいくらか無駄な時間を過ごしたが、その甲斐もあり瑞穂の堕落と籠絡を味わえた。
幾人も、幾十人も雌を拐かし籠絡してきた無機質な男はこの日も新たなターゲットを求めて彷徨い歩く。
あの日、堕ちた瑞穂は従順なる奴隷へと進化した。
それは一つの実験の成功を意味するが、一つの成功は新たな実験の踏み台にしかならない。
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ーー寝取り。
他の物を我が物へとするこの不道徳な行為は、どの世界でも起きる自然現象だ。
恋人となるも、結婚するも、全ては上っ面の契約に過ぎない。
精神の繋がりとは斯くも儚い。
金の力に引き寄せられることもあろう。
権力に従わざるを得ないこともあろう。
当然、肉欲に溺れることも…。
口ではいくらでも誓える。愛だの恋だの眠たい幻想を抱く輩は最も信用ならない。
俺のどこが好きか、ある女に聞いたらこんな答えが返ってきた。
「顔」
素晴らしいと思った。
嘘偽りの無い言葉である。そこには無駄に着飾った言葉は無い。ありのままの言葉がそこにはあった。
そして別の女はこう答えた。
「ちんこ」
こいつも嘘は無いと思った。
常に欲情しているような女だったし、生理の時でもしたがる言わば変態だった。
また別の女はこう答えた。
「全部好き」
こういう返答が一番不愉快だった。
そして俺が気に入らない答えがもっとも多かった。
「優しいところ」
「逞しいところ」
「賢いところ」
全部適当に繕ったものである。
それらが間違っているとは言わない。しかし、優しいのも逞しいのも賢いのも全部お前らの押し付けだ。
それと比較すれば顔だのちんこだの言ってる女は可愛い。
瑞穂は、本当の意味で聡明で正直だった。
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男は適当に歩くと、とある公園に目を向ける。すっかりと暗くなった景色は公園を無邪気な広場から怪しく危険な広場へと姿を変えている。
好奇心か、気まぐれか、男はその公園へと足を踏み入れた。
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「し…も、…ん…て」
ボソボソとした話し声が公園の奥から聞こえる。
俺はその声の主を知っている。
ゆっくりと、足音を立てずにその声を辿る。
「ぃ…あ…」
暗がりの中にポツンとある公衆便所。
その中をチラッと覗く。
瑞穂がそこに居た。
「ああ、お願い、もっとしてぇ」
「くくく、姉ちゃん、そんなに欲しいんか?俺のちんぽこがそんなに欲しいんか?」
「欲しいの、お願ぁい。おじ様達の汚いおちんぽもっとハメハメしてぇ」
四、五…六人。
六人のホームレスに囲まれて全裸の瑞穂は都合六本ものちんぽにむしゃぶりついていた。
「アアン!ね、お尻の穴も、ね?お願い、私の穴全部埋めてぇ」
瑞穂の最後の実験は奴隷から廃棄処分へと変わった。
その結果、もう後へ戻れなくなった彼女は男根無しでは生きていけない身体になっていた。
地元ではヤリマン、公衆便女とあだ名が付き、彼女を知る男は一様に彼女と寝た。
しかし、まともなSEXでは満足できない彼女は男漁りを決行。繁華街で、映画館で、漫喫で、カラオケで、ありとあらゆる場所で男のナニを触ってはむしゃぶりついて上に乗っかった。
SEX依存症だ。
もう彼女は昔の彼女ではない。
「ああ、チンカス凄い…くさぁい」
そう言いながら恥垢で汚れたホームレスのちんぽを嬉しそうに舐め回し味わう。
なんて、美しいのだろうか。
ホームレスからしたら瑞穂は女神のように見えるだろう。
俺は久し振りに瑞穂の幸せそうな顔を見て、安堵すると共に達成感を味わった。
「良かったな、瑞穂…」
小さく祝福の言葉を送る。乱れた彼女の耳にそれが届くことはない。
「アアアアアンッ!きた、おちんぽ尻穴にきたぁあ!アッアッ、ね、おまんこもぉ!使って!私でいっぱい気持ちよくなってぇ!」
狂乱は朝まで続きそうだ。
どうかそのまま変わらず、正直なままの君であってくれ。
俺は踵を返し、その場を後にした。
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その男の名前は、大野康平という。
清廉潔白、才色兼備と謳われた谷川瑞穂を如何にして本能のままに生きさせるか。
康平の課題はそれだった。
「よお、次はどいつにする?」
暗がりの公園の入口で康平に声を掛けてきたのは鏑木寛人。
実質瑞穂を骨抜きにした男。
「はは、やだな。尾けてきたんですか」
「瑞穂ちゃんはなかなか良かったぜ。また良い素材あったら頼むよ」
「持ちつ持たれつ、ですね」
「お前は油断ならねぇけどお前とつるむと何かと旨味があっからな」
「それはどうも。次のターゲット、決まってますよ」
康平は携帯電話を取り出して何やら検索している。
「うひょっ、待ってました!どんな娘よ?」
「そうですね…」
康平は勿体振りながら携帯電話を寛人に見せる。
どこやらのサイトらしい。
康平の口角が持ち上がる。
「《PiPi's World》ってサイトなんですけどね。次のターゲットは、このサイトによく来る女のーー…」
了