生きる術-1
その日は朝からバタバタしていた。
ファン国王の弟の奥さんがついに産気づいたと言うのだ。
「ボク、直ぐ戻んなきゃいけないからさ〜これ、地図と魔草の詳しい記述で、これが資金ね。それでぇ……」
ファンの宮廷魔導師エンはゼイン達に色々と渡した後、慌ただしく城に戻っていく。
「ついに出産かぁ」
ケイはアビィに乗って城に戻るエンを見送りながらワクワクしている。
「おめでたいわねぇ♪」
「跡継ぎだからな〜こりゃ、祭りが開かれるな」
カリーに答えたケイの言葉にゼインは不思議な顔をした。
「普通、王様の子供が跡継ぎじゃねぇの?」
双子の弟らしいが、だからといって国王の子供を差し置いて王様になるのは変じゃないか?
「うちの王様ゲイだから子供出来ねえもん」
「「ゲイ?!」」
「そう。ついでに言うとエンが恋人だから」
「「あの宮廷魔導師が?!」」
全大陸の中心にある平和なファン……穏やかで暖かいイメージがあったのに、王様はゲイだわ、恋人の宮廷魔導師はチャラいわ……何かイメージが180度変わってしまった。
「驚くのはまだ早いぜ?特にうちの自慢の姫様は変わり者でなぁ〜……」
「ああ、姫ってあれだろ?ゼビアの宮廷魔導師とトレードに使われてたって……」
ゲホッ
ケイの言葉を遮ったゼインの台詞に、ケイは何も口に入れて無いのに咳込む。
「ゲハッゲホッ……何だそれ?」
咳込みながら問いかけるケイに、ゼインは怪訝な顔で答えた。
「ゼビアから宮廷魔導師を引き抜く為に姫を渡したって聞いたけど……違うのか?」
ゼインの話はケイにとっては寝耳に水……多分、噂されている本人達もそうだろう。
「違うっ!全っ然違う!うわぁ……他国にはそんな風に思われてんだ……」
じゃあ、真実を教えてくれ、とゼイン達は黙ってケイの話を待った。
「姫様はゼビアの魔法学校に留学してる時に、そこの魔導師と恋に落ちて自分から嫁に行ったんだよ」
ゼビアの魔導師がファンの宮廷魔導師になったのは全くの偶然。
たまたま、ゼビアの宮廷魔導師の恋人がファンの巫女長で、たまたま、彼らが結婚する時期と姫が嫁に行く時期が重なっただけ。
ちなみにエンはファン国王に惚れて、ゼビアから押し掛けてきた。
魔導師になったのはファンに来てからだから、姫とトレードされたワケではない。