生きる術-3
ケイの家は父親、母親、叔父さんの4人暮らし。
父親とケイは漁師で、叔父さんは船医だ。
母親はいかにも肝っ玉母さんといった感じで、ポロを預かるのも快く承諾してくれた。
一応、元奴隷で命を狙われている可能性があるので、もしかしたら襲撃されるかも……と伝えたのだが「気にしない」と答えた。
「困ってる奴が居りゃ助けりゃいいってだけだ」
ケイの父親は豪快に笑ってゼインの背中をバシーッと叩き、小さいゼインはぶっ飛んだ……と、いうのは余談だが。
自分の為に他人が良くしてくれるなんて……精一杯、誠心誠意込めてご奉仕しよう。
ポロは奮起して魚屋の仕事を手伝う事にした。
奴隷という事もあり、ポロの仕事は丁寧で早い。
洗濯、掃除、食事の準備に後片づけ……道具の場所と使い方さえ教えれば効率よく仕事を片づけていく。
その手際良さにケイの家族は驚くばかりだ。
「……おい、ケイ。あれ、嫁にしろ」
「ぶっ」
家の裏で網を修復していたら、とんでもない事を父親に言われ、ケイは思わず吹き出す。
「そりゃ良い。こんなに良く働く嫁さんは中々居ねぇぞ?」
叔父さんまでもがノってきてケイの背中をバシバシ叩いた。
「馬鹿じゃねえの?こんな魚屋に喜んで嫁に来る女は居ねえっつうの」
海に出れば危険はつきものだし、稼ぎもそんなに多くない……27になってもケイが独身な理由はそこにある。
過去に彼女は沢山居たが、結婚を持ち出すとフラれる。
今じゃ結婚は諦めてしまった。
「悪かったねえ……喜んで嫁に来ちまってさあ」
丁度後ろを通りかかった母親がケイの頭をゲシッと踏みつけた。
「あんたが結婚出来ないのは仕事のせいじゃないよ」
母親は足をぐりぐりさせながら続ける。
「あんたに魅力が無いのさ、あんたにね」
「う…るさいなあ……」
ケイは頭を上げて乗っかってる母親の足を払い退けた。
「あんたさえ居てくれたら、どんな仕事でも構わないって思わせなきゃ……ねえ?アンタ♪」
「母ちゃんは俺にベタ惚れだもんなあ?」
「勿論だよ♪アンタ♪」
父親と母親はがっしりと抱き合って熱〜い口づけを交わす。
叔父さんは嫌な顔でケッと唾を吐いて、その場を立ち去った。
こうなると、この2人は所構わずおっぱじめるので見ないにこしたことはない。
ケイも慌てて立ち上がり、その場から逃げた。
顔を上げた視線の先には乾いた洗濯物を大量に入れた籠を抱えたポロが居て、きょとんとした表情でこっちを見ている。