元カノ-7
「知らない番号だったから誰かと思った」
私は再びベッドに横になりながら話し始めた。
なるべく普段通りを意識して。
『あー……、教えてなかったっけ? まあ、毎日顔合わしてたら電話なんてそうそうしないもんな』
そう言って彼は小さく笑う。
いつもの土橋くんだ。
私はなぜかホッと安心して小さく微笑んだ。
「……ってか、私の番号消してなかったんだね」
『まあな。女の番号なんてもったいなくて消せねえよ』
電話の向こうのおどけた笑い声。
―――郁美の番号は消してたじゃん。
そう思ったけど、口に出すのは止めた。
今は郁美の話はしたくなかった。
たとえ短い間だけでも、いつものようにくだらない話で笑い合いたかったから。
『あれからカラオケ行ったのか?』
「うん。大山くん、すごく上手くなってたよ! 採点やったら85点出してたし」
『マジで! あの倫平が!? こりゃ俺も次行って確かめてみないとな』
土橋くんがそう言うと、グッと胸が詰まってしまって、咄嗟に言葉を出せなかった。
彼の“次”と言う言葉が私を不安の渦から引き上げてくれた気がして。
また、今まで通り一緒にいられる、そう思った。
私は堰を切ったように、次から次へと他愛もない話が出てきた。
男の子が苦手だったなんて、まるで嘘のように。
土橋くんは、そんな私のくだらない話に小さく笑いながら相槌を打ったり、時々は自分の話もしてくれたり。
いつもなら、聞き役にまわってばかりの私がやたら饒舌になっていたのは、土橋くんからの初めての電話が嬉しかったからなのか。
それとも、彼が何かを話そうとしているのを聞きたくなかったからなのか。
今の自分にはわからなかった。