元カノ-2
「大山くんは今日何歌うの?」
私達四人はぞろぞろと固まって校舎を出ると、おしゃべりしながら駐輪場へ向かった。
「えっと、金曜の10時のドラマ見てる? あれの主題歌なんだけど」
「ああ知ってる! でもあれさ、声高くない? また裏返るんじゃない?」
私はニヤニヤ笑って大山くんを見る。
「って思うでしょ? でも、結構いい感じに歌うんだよ」
すかさず沙織が、私に向かって少し自慢気に話す。
そんな様子が大山くんには嬉しそうだ。
「今までは自分の歌が笑われるのが嫌でカラオケは敬遠してたんだけど、何でも慣れだよな。そのうち石澤さんにも採点で勝つ日が来るかも」
大山くんがニヤリと私に笑い返すと、
「おめーは調子乗りすぎだ」
と、土橋くんがペシッと彼の頭を叩いた。
私と沙織は、そんな二人のやりとりを見ながら声をあげて笑う。
「桃子は相当上手いもん。倫平なんかまだまだだよ」
沙織に褒められ、私は照れながら口元を手で覆った。
「石澤、今日もあれ歌え。こないだ俺が入れた曲」
私に向かって土橋修が言った。
曲のタイトルを確認すれば、彼は小さく頷いて、
「あの歌、俺大好きなんだよ。でも自分で歌ってもどうも上手くいかねぇ」
「だって、あれ女の人の歌だもん」
私が笑うと、つられたように、
「だからお前に歌わせるんだよ」
と、笑う。
でも、土橋くんの大好きな歌を歌うのは密かに抵抗があった。
前回カラオケに行ったとき、強引に歌わされたその歌はメロディーだけは知っていたのでなんとか歌うことができたけど。
そのとき初めて知った歌詞の内容ってやつが、女の子が恋人未満の男の子に対する気持ちを伝えたいけどうまく言えないとヤキモキするラブソングで。
歌詞を知って、急に自分とダブっているような気になったから、それを彼の前で歌うのが急に気恥ずかしくなった。
なんでわざわざそんな歌を私に歌わせるのかな、なんて思いながら。
でも、きっと彼に深い意味は無い。
友達にどんなに冷やかされても動揺一つしないほど、私は意識されていないのだから。
沙織や大山くんと盛り上がる土橋くんの無邪気な笑顔を一瞥してから、ほんのり赤い顔が気づかれないように、私は一足先に駐輪場に駆け出した。