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夕焼けの窓辺
【その他 官能小説】

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第6話-21

「それにしても昨日は羨ましかったな〜。久々に先生見たけど、相変わらずカッコ良いし、何か英里すげー大事にされてるっぽいし」
すっかり相好を崩し、先程までとがらりと態度が変わって、明け透けに言ってくる。だが、今は彼女がそんなさばさばとした性格で良かったと英里は思う。
「…ねぇ、黙ってた事…本当に怒ってない?」
「え?だから怒ってないって。それより、英里の方こそ怒ってない?最初英里んちに電話したんだけど、誰も出なくて、その時に偶然、その、先生の番号見つけて…」
済まなさそうにそう言う友人の台詞から、自分達の関係がばれてしまった理由を、英里はようやく知ったのだった。
どちらにしても、彼女に非はない。あるとすれば、コントロールが出来ずに酔い潰れてしまった自分自身だ。
それに、彼女になら知られても、圭輔にさして迷惑は掛からないだろう。英里の、数少ない分、密な交友関係の中でも、彼女は特に信頼している親友なのだから。
「怒ってないよ。何か、私いろんな人に迷惑掛けちゃったんだ、ごめん…」
「じゃあ、もういいじゃん。これからお互い謝んのなしだからね。それより、さっさと店出てうちで飲もうよ。今あたし1人暮らしだから気兼ねする必要ないし、こんな時こそ飲まないでどーすんのって感じだしね」
「でも…」
「大丈夫、もし酔い潰れたら今夜はうちに泊まってけばいいから。英里酔わせたらいろいろ面白い話聞き出せそうだし、昨日以上に飲んで貰わないと」
もう彼女の中では決定事項のようで、英里に口を挟ませる余地もなく、どんどんと話が進んでいく。ある意味、こんな展開は2人でいる時のいつも通りだ。
「……じゃあ、そうしようか」
どうせ家に帰るつもりがなかったので、英里は快諾した。
家を出て、3日になる。まだたったの3日。
置手紙に、友人の家に泊まると残してきたせいか、まだ両親からの詮索は何もない。家族の問題も早く解決しなければならない。そして、残されたもう1つの問題。
店を出る前に、英里は圭輔にメールを送った。
昨夜、彼は、自分の部屋に泊まればいいと申し出てくれたのだから、連絡しておくべきだと思ったのだ。
昨日の言葉は、彼の本心からなのか、それとも単なる寝言で深い意味はないのか、知りたかった。
しかし、自分から聞き出す勇気がない。
返事がないか、しばらく携帯のディスプレイを見つめていたが、精算を終えて、英里の名を呼ぶ友人の声が聞こえた。
とりあえず、今夜は何もかも忘れて、彼女と楽しく過ごしたい。
英里は携帯の電源を切って、カバンの中に無造作に放り込んだ。



「…。」
英里からのメールを見て、圭輔は落胆する気持ちを隠さず、深い溜息を吐いた。
今日は彼女がいるだろうと思い、少し早めに切り上げて帰ってきたのだった。
勝手な思い込みで取った行動なのだから、彼女を批判する筋合いなどないのだが、いろいろと食材まで買い込んできた自分のはしゃぎようが何となく恥ずかしい。
部屋を見渡すと、彼女なりに片付けてくれているようだった。
食器は綺麗に洗って棚に片付けられていたし、1LDKと狭い彼の部屋には寝室などなく、折りたたみ式の机を端に寄せて毎晩布団を敷くスペースを作っているが、勿論それもしっかり元通りに戻してあった。
まるで髪の毛1本でも形跡を残さないよう配慮されている、きっちりとした掃除のしようだった。
ある意味、彼女らしいといえば彼女らしい。
圭輔はソファに腰を下ろすと、また軽く嘆息する。
親しき仲にも礼儀あり、という言葉があるが、英里のそれは未だに徹底しすぎているような気がしてならない。
だからといって、部屋を散らかしたまま帰って欲しいというわけでは決してないのだが、ここまで痕跡を隠すかのように後片付けをされてしまうと、それは逆に何だか淋しいのだった。
いつまでも、どこか他人行儀で、心の奥底で踏み込めない境界線を引かれているように感じてしまうのは、単なる自分の思い込みすぎだろうか。
今朝、どさくさに紛れてとはいえ、合鍵を彼女に託したのは、自分の家のように寛いでくれてもいいといった意味合いも込めていたのだが、どうやら英里はそうは思ってくれていないらしい。
自分は、英里にどれだけの愛情を示せているのだろう。
まだ、彼女にとって気が置けない存在になれていないという事なのだろうか。
1人で答えのない葛藤を続けていても埒が明かない。
圭輔は気を取り直して、彼女のメールに対する返信をする。
8月の終わり、まだまだ蒸し暑い夜に、焦慮に駆られる自分を一晩中持て余しそうだ。



「…やっぱり、英里が上に寝たら?」
ベッドの上に寝転がっている陽菜が、頬杖をついて、英里を見下ろす。
「ううん、こっちの方が落ち着くから」
そう答えた英里は、床に敷いた布団に寝ていた。彼女にベッドで眠るよう勧められたが、頑なに断ったのだった。
布団の隣の、小さい丸いテーブルの上には、飲んだ後のアルコールの缶やらが散乱している。
彼女が1人暮らしをしている部屋は、彼女らしい、明るい色調で統一されており、ベッドの上には彼女の好きなキャラクターのぬいぐるみが所狭しと置かれている。
床の上に敷かれているカーペットも、スリッパも、みんなハート柄やピンク色だ。360°辺りを見渡すと、大体どこもそんな感じだった。
いかにも女の子らしい部屋といった感じのこの部屋は、あまりこういう雰囲気に慣れていない英里には、最初はほんの少し居心地が悪かった。今はもうすっかりこの空間に馴染んでいる。
「うーん、まぁ英里がそう言うなら。…ねぇねぇ、馴れ初めは?どうやって先生と付き合うようになったの??先生、女子にすっごい人気あったし、よく認識してもらえたよねぇ」
まさに、彼女の言う通りだ。他の女生徒のように正攻法でいっていたならば、英里もきっとただの生徒の1人という印象しか残せなかったはずだった。


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