月の光と都会の光-5
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シャワーから戻るとベッドの上で由梨が寝ていた。
こんな広いベットの中央を見事に陣取っている。
しかもこれでもかというくらいゴロゴロしたあとがある。
どんだけはしゃいでるんだと思わず笑ってしまう。
由梨にはこういう子どもっぽい所がある。
日頃は結構しっかり者なのに、こういう子どもっぽさや、天然発言が時々見られる。
話しやすいし、情に厚いし、なにより信頼できる。
昔からモテるが、本人は気づいちゃいない。
俺も長いこと想っているが、一向に気づく素振りもない。
こうやって2人で旅行に行くのは初めてだが、学生時代から何度もうちに泊まったことはあるから2人で一緒に寝ることは初めてではない。
ただ、俺にとっては毎回結構辛かったりする。
由梨はホントに無防備に寝る。
何とも思ってないんだろうなぁとか、男として見られてないなぁとか、色々現実を見せつけられる。
でもそれでもこうやって(何もないけど)一夜を共に過ごせることは嬉しい。
こいつとのこの関係はこれで心地よかったりする。
そう思う俺は半分諦めてるのかもしれない。
冷蔵庫からミネラルウォーターを取り、テーブルに目をやると、ホテルが用意した誕生日のカードとシャンパンがある。
由梨はかなり驚いていたから聡が予約してたのだろう。
あの日、聡と別れたとき、一緒にいたのはホントに偶然だった。
今由梨に一番信頼されている男は自分だという自信はある。
ただ、彼氏になれる自信は全くない。
お兄ちゃんのようだと言われる。
実際、俺も出会った頃は妹のように思ってたからわからないわけではない。
しかし、これだけ一緒にいるんだから、少しは男として見て欲しい。
そんな欲が最近は強くなってきたかもしれない。
ミネラルウォーターを飲み干し、ベッドに目をやると由梨が相変わらず中央で眠っている。
寝床の確保をしなければ眠れない。
「由梨さん、少しどちらかに寄ってくれませんか?」
声をかけても「んー」と返事があるだけ。
かなり長い時間付き合わせて、そこそこの量を飲んでるから、気持ち良い酔い方をしてるようだ。
顔に締まりがない。
仕方なく抱き上げ少しずれてもらう。
無防備に開いた口に笑いながら、なるべく接近しないよう少し間隔をあけてベッドに入る。
生き地獄ってこういうことだと思う。