月の光と都会の光-3
鏡から目を逸らし、トイレのドアに手をかける。
トイレから出て戻っていると、通路のイスに高橋さんがいた。
「ねえ、1人?」
高橋さんがいきなり聞いてくる。
「はい?!」
意味がわからず変な声がでてしまう。
私の反応に高橋さんが笑い出す。
「いや、俺が今日最初に由梨ちゃんに話し掛けた言葉だよ。どんな反応するかなって言ってみただけ。」
「あ、そうですか。でも笑い過ぎですよ!何事かと思ったじゃないですか。」
「ごめんって。由梨ちゃんが元気出ればと思ってね。」
笑いながらそう言ったあと、高橋さんが真顔になる。
「由梨ちゃん、今日どうするの?」
少しドキッとする。
「私はホテルに帰ります。」
「大輔くんは?」
「そうなんですよ。先に帰る方がいいのかなと思ったんですけど…迷ってて。」
「じゃあ、俺と一緒に出ようか。途中まで送るよ。」
「…はい。」
私が返事をすると、高橋さんが私の頭に手を置くと、くしゃくしゃとして笑って言った。
「大輔くんじゃないとダメなんです。って顔になってるよ。」
ー!!!
「そんなことないですよ!」
思わず大声になる。
高橋さんは相変わらず笑う。
「じゃあ、俺のとこくる?」
「はい?!」
「俺の家までくる?」
そう言うと真顔になり、右手を捕まれる。
「あ、あの、高橋さん?!」
「俺はー」
高橋さんが何か言いかけた瞬間、いきなり後ろから違う手が伸びてきて捕まれていた手を離された。
びっくりして振り返ると不機嫌そうな大輔くんがいた。
高橋さんはニヤリと笑う。
「遅いぞ。片桐は任せとけ。」
高橋さんはそう言ってイスから立ち、テーブルの方に歩いて行く。
私は意味がわからず大輔くんと高橋さんを交互に見てしまう。
大輔くんはため息をつくと高橋さんが座っていた場所に座る。
自分の荷物と私の荷物を持ってきてくれている。