狙われたマヤ-6
細い路地に入る。
一方通行の道をくねくねと曲がり、坂の上にある大きな一軒家に辿りついた。
民家とは思えないような頑丈な門から入り、その灰色の道の奥に車が止まった。
エンジンが切られ、ライトが消えてしまうと何も見えない。
そのまま、田宮はシートに背中を預け、顔だけをマヤのほうへ向ける。
ナイフが太ももに押し当てられる。
「やめて……ください……」
情けないほどに、震えが止まらない。
田宮の笑い声が大きくなる。
「あはは、気分いいなあ……あのさあ、社長たちにも、生徒のお父さんたちも股開いて、楽しかった? 気持ち良かった?」
どうして田宮がそれを知っているんだろう……。
頭の中に疑問が溢れかえる。
「そんなこと……」
「全部、知ってるよ? だって調べたもの。仕事の後、帰ったふりして跡をつけたり、盗聴器仕掛けたり、そりゃあ大変だったんだから」
ほら、とマヤのバッグを指さす。
仕事用にいつも使っている皮のバッグ。
そのファスナー部分に、小さなぬいぐるみのストラップがついている。
田宮と雪村が旅行に行ったお土産だ、とくれたものだった。
「ほかにもいっぱいあるけどね。探偵みたいで、ちょっと楽しかったわ……男とやりまくってるときの声も、ばっちり聞こえたよ?」
あんあん言っちゃって、馬鹿みたい。
そう呟きながら、スカートの真ん中あたりにナイフを突き立て、引く。
布地がピリリと裂け、白い太ももの付け根までがちらりと見えそうになる。
下着をつけていないことを思い出し、そこを両手で隠した。
「いやっ……! どうして……盗聴器なんて……」
「ふうん、あんたみたいなヤリマンでも、まだ恥ずかしいって思うんだあ? 言っとくけど、趣味とかじゃないよ? 立派なビジネスだから」
「ビジネス……?」
「お金、もらってるからね。みんな気前よく払ってくれるからさ、良い稼ぎになったよ」
「み、みんなって……何なの、いったい、誰が……」
「わかんない? 先生、意外とアタマ弱いのかな? ほおら、自分の目で確かめなさいよ」
田宮の手が、髪をわしづかみにする。
フロントガラスにマヤの頭を打ちつける勢いで、その手を前に突きだす。
車の正面に、人がいた。
ひとり、ふたり……10人はいるだろうか。
「あれは……」
マヤは絶句する。
そこにあったのは、見慣れた生徒の母親たちの顔だった。
(つづく)