1-3
久しぶりに「似ている」と言われ、俺は意味もなく動揺した。
「に、て、ますけど、それが何なんですか」
「あぁ、眠い」
そう言うと彼女はいきなり棒倒しの棒みたいに凭れ掛かって来た。俺は担いでいたギターを危うく落としそうになりながら、彼女の身体を支えて「ちょぉっとっ!」と少し大きな声を出す。
しかし閉じられた彼女の目蓋は、身体を揺すっても頭を叩いても頬をつねっても開かない。かろうじて、息をしている事は分かる。仕方がないので彼女の身体を引きずるようにして玄関まで歩き、一旦ギターを玄関先に置くと、鍵を開けて部屋に入った。電気を付ける事もままならないまま、彼女を俺のベッドに横たわらせた。スプリングなんてない、布団敷きのベッドだけれど、構わず乱雑に放った。放る事ができる程、軽かった。固いベッドに放った衝撃で目を覚ますかと思ったのだが、身体を仰向けたまま寝息を立てている。
彼女が持っていたはずのナイロンのボストンバッグが見当たらず、一度外に出てみると駐車場に転がっていた。すぐに回収し、ギターと一緒に部屋に持ち込む。
俺はベッドサイドに突っ立ったまま、彼女の寝顔をじっと見つめる。全く見覚えのない顔だった。音楽関係で知り合った人ではない。少ないがついてくれている俺のファンの中にも、この顔はないはずだ。勿論親戚でもない。だとしたら、誰だ? なぜ俺に声を掛け、俺の家について来たんだ?
「もしもーし?」
もう一度身体を揺すってみたけれど、履いていた靴がベッドの足元に転げただけで、起きる気配はなかった。靴を脱がせ忘れていたのかとその時になって気付き、赤いパンプスを玄関に運んで行った。
もしかすると物取りかもしれないと考え、念のため、貴重品は風呂場に持ち込んでシャワーを浴びたが、彼女が動いた形跡はなく、それどころか寝返りすら打っていない。俺は首を傾げながら、来客用の殆ど使った事がない布団を床に敷き、財布を握りしめて横になった。布団はベッドの横のスペースに敷ききれず、端を折るような形になったが、他に寝る場所がないので仕方が無いと諦める。
彼女の鞄の中に身分証明書になるものがあるだろうかと考え、探ってみようかとも思ったが、それこそ物取りのようで気が進まない。
「あ」思い出したように俺は立ち上がり、彼女の足元に丸まっている掛け布団を、肩の辺りまでしっかり掛けてやると、俺は再び布団に横になった。