媚肉の宴-3
「最近は求め方も大分激しくなってきて…。聞き込んだところでは、相手が引いちゃうこともあるみたいね。ムチやバイブに飽き足らず、拳までおねだりしてるそうだから…」
「……………」
愛花は言葉を失った。
手足が急速に冷たくなり、頭から血の気が引いていくのを感じていた。
ママはやっぱり、あの地下室で冴木真樹子から受けた地獄の責め苦が忘れられないのだ!
無言のまま小刻みに体を震わせている。
「本当は隠し撮りした写真もあるんだけど…。見ない方がいいわ。あなたには刺激が強すぎます」
薫はブリーフケースから取り出しかけた封筒を再びしまい込んだ。
愛花はぐっと言葉を飲み込んだ。
それを見せて下さい、とはどうしても言えなかった。
「…女は誰でも子宮の中に淫らな獣を飼っているの。今のママはセックス狂いのモンスターよ。このままじゃオマンコが暴走してとんでもないことになるわ。急いで荒ぶる女陰を鎮める『満鎮祭』(まんちんさい)をやった方がいいかもしれない」
「満…鎮…祭…?」
「そう。剣道部に伝わる伝統の儀式よ。たけり狂ったオマンコをみんなの愛によって鎮めるの。でも中途半端はダメ。いくら相手が泣いても喚いても、発狂する寸前まで責め苛むの。あなたに出来る?」
「…そんな……。私…っ!」
あれほど苦しんだ志津を再び自分の手で苦しめるなど、とても出来そうにはなかった。
愛花が迷って沈黙を続けていると、薫はジャケットから取り出したタバコに火を点ける。
ゆらりと煙をくゆらしてふーっと吐き出すと呟いた。
「悲しいけどあまり時間がないわ。決心がついたらまた電話して? あ、そうそう、今回の調査費用だけど…」
「え…っ?」
ふと気づくと愛花の顔に不意に薫の艶やかな唇が近づいていた。
チュッ。
柔らかな唇の感触とタバコの香り。
いきなり唇を奪われて驚く愛花を尻目に、薫はそのまま席を立ってレジへと向かう。
「調査費用がキス1回なら安いもんでしょ?」
薫は振り向いてニヤリと笑った。
さっきまでシリアスな話をしていたはずなのに、いきなりはぐらかされてぽわ〜んとした気分。
(薫さんて、何だか不思議な人…)
愛花はあっけにとられて立ち尽くしていた。
しかし、帰宅してみると家ではさらなる衝撃が待ち受けていた。
「ただいま。…ママ、帰ってるの?」
「愛花。ちょっと話があるんだけど…。そこにお座りなさい」
いつになくあらたまった調子で志津が言う。
「ママ…一体どうしたの?」
ソファに腰掛けると、志津は用意したハーブティーを淹れながら切り出した。
「愛花…。落ち着いて聞いてちょうだい。パパと離婚しようと思うの」
「えっ?! ママ…っ! それってどういうこと?」
激しく動揺する愛花をなだめるように、ゆっくりと志津は言った。
「あなたも薄々感づいてるんでしょ? 私がこっそり夜中に外出してるって…」
「う、うん…知ってた…」
「冴木クリニックであの女におかしな薬を打たれて…アソコをメチャクチャにされて…。ようやく正気に戻ったけど…あれ以来…私…やっぱりおかしいのよ。何日かに一度…オマンコが…どうしようもなく疼くのよ!! 我慢出来ないの! …凄くHな夢も見るし…」
言葉を続けるうちに昂ぶってきた志津は叫んでいた。
「ママっ! もう一度病院に行こ…っ!?」
立ち上がってなだめようとする愛花を志津は静かに首を振って遮った。
「理事長先生には隠しておきなさいって言われたけど…。もうダメよ。こんなことになっちゃったんだもの…。パパに正直に話して、精算しようと思うの」
「そんな…! そんなの嫌っ!!」
「大丈夫。すぐに離婚するわけじゃないわ。今度パパが帰ってきたらよく話し合うだけ。当面は別居だけして、正式に離婚届を出すのは、あなたが高校を卒業してからにするわ。愛花…ついてきてくれるわよね?」
「…………」
パパとママが離婚してしまう…!!
今まで3人で築き上げてきた生活が壊れてしまうのはたまらなく嫌だった。何よりパパが可哀想だ。
しかしさんざん凌辱され、身も心も深く傷ついている志津のことを思えば、無下には止められない。
愛花は黙りこくっていた。
何とか話題をそらさなければ。
とっさにお金の話を持ち出すことを思いついた。
「だって…ママ、離婚したらもっと働かなきゃいけないじゃない? それって大変だよ…」
できるだけ明るい表情を作りながら言ってみた。
しかし、そんな必死の言葉も志津の予測範囲内だった。
志津は愛花の肩に手を置いた。
「そんな心配しないで。代議士の小淵沢先生は知ってる?」
「…ううん。理事長先生からちょっと聞いたけど…」
「あの女にそそのかされて、私たちと奴隷契約を結ぶつもりだった人よ。実はこのあいだ、その人と会ってきたの」
「えっ?!」
「お会いしてみたらいい方でね…。丁寧にお詫びしてくれたわ。だから、私からお願いしたの」
志津は一呼吸おいて、ゆっくりと告げた。
「『私を貴方の奴隷にして下さい。思い切り淫らに堕ちてみたいんです』って…。そしたら先生、凄く喜んでくれて。『貴女が私のものになってくれるなら全身全霊をかけて愛する』と誓って下さったわ。あなたには一切手出ししないと約束してくれた。学費も援助して下さるそうよ」
そう言った志津はかすかに頬を染めて微笑んでいた。
その言葉を聞いた瞬間、頭の中が真っ白になった。
既に志津は愛花の将来も考慮に入れ、牝奴隷としての第二の人生を考えているのだ。
(ママ…もうそこまで考えているの…!?)
普段はおとなしくても芯が強く、一度口に出したことは翻さない志津の性格を知るだけに、愛花は説得する言葉を失った。