ざわめき-1
最近、私の生活スタイルに少しずつ変化が訪れてきた。
以前なら沙織とおしゃべりをして、お弁当を食べて、放課後にどこかに寄り道をして……そんな平和でどこか退屈な生活がずっと続くものだと思っていた。
そんな地味な私が、小さいけれど新しい世界を広げるきっかけをくれたのが―――
「……なんだよ。ジロジロ見んなよ、気持ち悪ぃ」
目の前で悪態を吐きながら、いつものごとく興味もないくせに私の雑誌をパラパラとめくる土橋くんだった。
「いや、別に……」
「いくら俺がかっこいいからって見とれてるんじゃねえよ」
土橋くんはフフンと笑って私に得意のデコピンをしてきた。
「痛っ!! 何すんの! 別に見とれてたわけじゃないし! そもそもあんたのどこがかっこいいってのよ!?」
彼の言葉に、私は額を抑えながら鼻息荒く必死に否定した。
そんな様子を見てはなぜか笑いをこらえるように顔を見合わせる沙織と大山くん。
そんな光景が、少しずつ増えてきた。
もちろん、沙織と二人でおしゃべりする時もあるし、たまに私が一人でボーッと過ごす時もあるし、土橋くんと二人で他愛もない話をして過ごす時もある。
何がなんでもグループで過ごしていた中学生の頃に比べると、高校生はやはり自由だなとつくづく思う。
「そうか? 俺的にはかなりイケてるって思ってたんだけど……」
「気のせいでしょ」
私は呆れ顔で頬を撫でている彼の顔を見つめる。
……なるべく平静を装いながら。
「うん、修はかっこいいよ。怖い顔で話しかけづらいけど、実は面白いし、本当は優しいからそういうギャップが好きになる人っていると思うよ〜、あたしみたいに」
沙織が頬杖ついてニコニコしながら言うと、土橋くんは顔を赤らめて人差し指で頬を軽く掻きながら、
「よし、んじゃ倫平と別れて俺と付き合え」
と、ふざけて言った。
「おい。勝手なこと言うんじゃねえよ!」
すかさず大山くんは土橋くんを睨みつけるけど、
「ごめんね〜、あたしはもう倫平以外の人は考えられないんだ」
と、沙織に腕を組まれたら、だらしなく笑っていた。
「あーあ、もったいないことしたね」
ニヤニヤしながら土橋くんを見る。
「……うるせえな」
彼はジロッと私を睨みつけると、口を尖らせて下を向いた。
沙織が以前土橋くんに告白したことは、今や沙織が土橋くんをからかうネタになっていた。
彼も冗談で返すものの、罪悪感からなのか気恥ずかしさからなのか、なんとなく空回りしていて歯切れが悪い。
でも、こうして笑い話にできると言うことは、沙織は本当に大山くんを好きになったからだろうし、土橋くんも大山くんもそれをわかっているから、嫌な顔をしない。
今では大山くんですら、
「沙織を振るなんて、ホントバカな奴だよ」
なんて笑う始末だ。
私もそのことに対してからかうようにまでなったけど、土橋くんが本当に沙織を振ったことを後悔してるのかな、と考えるとなぜか胸が苦しくなるのだった。