ざわめき-5
「修と仲良くなってから、桃子は変わったよ」
沙織は手すりに両肘を乗せ、ニカッと八重歯を見せた。
私は黙って柵の向こうののどかな田園風景に目をやってから、
「……好きって感覚がよくわからないんだよね」
とポツリと呟いた。
「男友達って今までいなかったから、土橋くんを友達として好きなのか、恋愛対象として好きなのかわかんないの」
私がそう言うと、沙織は、
「そっか」
とだけ言って、またカフェオレを一口飲む。
私もそれを見て、自分のオレンジジュースにストローを挿して、ジュルッと飲み込んだ。
沙織はそんな私を見つめながら、
「じゃあ、修が頑張らないといけないんだ。桃子は鈍感みたいだから」
と、笑った。
「な、何それ! どういう意味よ!?」
私は慌てて、早口でまくしたてるように沙織の顔を見た。
「修はもしかして桃子のこと好きかもって思うことがたびたびあるの。あたしが昼休みに倫平と会ってるとき、修はよく桃子のとこに遊びに来るでしょ」
「……それは、私がひとりになるから気を遣ってるだけでしょ。それに毎回毎回ってわけじゃないから、ただの気まぐれだろうし」
「さっきだってさ、付き合うのも桃子次第みたいな言い方してたじゃん」
沙織の言葉で、先程のやりとりを思い出すと、瞬間湯沸かし器みたいに私の顔がボッと熱くなった。
「あ、あれだってニヤニヤ意地悪そうに笑って私をからかってたじゃない! それに、沙織にだって“倫平と別れて俺と付き合え”なんて言ってたし!」
私が慌てて反論しても、沙織はにっこり笑って首を横に振り、
「あたしへの冗談は、あたしじゃなくて倫平をからかってるんだよ。倫平がいないときは絶対そんな冗談言わないもの。そもそも、あたしがまだ修のことが好きだった頃だって、そんな期待させるような冗談は言われたことなかったし」
と、淋しそうに言った。
「それは、土橋くんは……!」
―――沙織のことが好きだったから冗談でそんなこと言えなかったんだよ。
と、途中まで言いかけてハッと口をつぐんだ。
土橋くんが沙織を好きだったことは、固く口止めされている。
「あたしは、修のこと長い間好きだったから、修の態度とか見てるとなんとなく桃子は他の女の子に比べて特別な感じがするってわかるんだよね。修、桃子の姿を見ると必ず話しかけてくるでしょ。たとえ友達と盛り上がってるときでも。それで桃子にちょっかい出しては怒られて。子供っぽいけどあれって好きな娘ほどいじめるってヤツだよね」
「そんなことないよ……。私は昔からいろんな人にからかわれてきたからわかるもん。土橋くんも私のことからかって楽しんでるだけだよ」
私は、土橋くんの気持ちを知っていたから、はっきりと否定した。