ざわめき-4
私達は、自動販売機で紙パックのジュースをそれぞれ買い、校舎の一番端にある、非常階段の最上階にやって来た。
冷たい風が肌を刺すように吹くけれど、三階からの眺めは爽快で、みっしりと建ち並ぶ家々、幹線道路をせわしなく行き交う車、遥か遠くには青々とそびえ立つ山脈が見えた。
「ここから景色を見ると目がよくなりそうだね」
私は、笑いながら柵に身を乗り出してあちこちを眺めた。
グラウンドでは体育の授業でサッカーでもしているのか、男子の騒ぎ立てる声が遠くから聞こえてくる。
「ごめんね、無理矢理サボらせちゃって」
沙織は私の隣で両手を合わせて言った。
「いいよ、日本史は眠くて苦手だったし。……それより話って?」
「うん……、もう単刀直入に言うね。桃子、修のこと好き?」
沙織はいつになく真剣な顔で見つめる。
「やだ、沙織までさっきの話の続き? そんなことあるわけないじゃん」
私は心を見透かされたような気がして、沙織のまっすぐな視線から目を逸らしてしまったけど、できるだけ平静を装って冗談ぽく言った。
「お願い、あたしにだけは正直に言って」
しかし、沙織は真剣な顔のまま私の顔を見据えて食い下がってくる。
「……ホントに、何とも思ってないってば」
私は沙織の真剣な眼差しに少し怯みつつ、目を逸らしながら言った。
「……桃子、あたしね。最近の桃子見てるとすごく明るくなったなあって思うんだ」
沙織はフッと表情を和らげて微笑んだ。
「明るく……?」
「うん。まあ、以前も明るくて面白かったんだけど、どこか自信なさげな感じがしたし、人前ではすごく大人しかったでしょ。それが、今は人前でも思いっきり笑えるようになってるもの」
「そう……かな?」
「それに、なんか最近可愛くなった」
沙織は私の隣に来て、柵にもたれかかると、手に持っていたカフェオレにストローを挿して一口飲んだ。
「やだあ、お世辞なんか言っちゃって! 何にもあげないよ」
私は顔がみるみる紅潮していくのを感じながら、それでも冗談っぽく言った。