ざわめき-3
こんなことで彼の迷惑そうな顔なんて見たくない。
ギュッとキツく目を閉じていた私をよそに、土橋くんはゆっくり口を開けると、
「まあ、コイツが乗り気なら俺はいつでも大歓迎でいるんだけどな」
と、ニヤニヤしながら私を見た。
「えっ……?」
沙織と大山くんが同時に驚きの声を漏らす。
私は固まったまますぐに反応できず、赤らめた顔で土橋くんを見た。
しかし彼は下を向いて、笑いをこらえているかのように肩を震わせている。
あっ、コイツ……!
すぐにいつものようにからかっているのだと気付いて、
「あんた、また私をからかってるんでしょ!」
「何だよ。俺じゃダメか?」
「あー、ムカつく! そうやって私のことからかって楽しんで!」
土橋くんの頭をスパーンとはたいてやるけど。
「あ〜あ、俺、石澤に振られちった」
彼は舌を出して、大山くんの方を向いて笑うだけ。
私はそんな土橋くんの態度にムキになって怒ってはいたけど、内心は、迷惑そうな態度を取らずにいてくれたことに、ホッとしていた。
そんな私達の様子を見て沙織が笑う。
でも、その時の私は、沙織が少し淋しそうに笑っていたとは全く気づかなかった。
やがて会話もある程度一段落した頃、タイミングよく予鈴が鳴りだした。
「そろそろ戻るか」
土橋くんと大山くんはガタッと椅子から立ち上がり、私達に小さく手を上げて見せると、すぐに二人で何やら楽しそうに笑いながら教室を出て行った。
あの切り替えの早さを見ると、アイツのさっきの冗談を未だ引きずって顔を赤くしている自分が悔しくなる。
気にしているのは、自分だけなんだ。
短いため息をついてから、私は次の授業の用意をしようと机の中に手を伸ばした、そのときだった。
「桃子、次の授業……サボんない?」
沙織は私の顔を伺うように見つめながら言った。
「え……? どうしたの、いきなり?」
沙織の唐突な提案に、不思議な顔で彼女を見る。
「んー、ちょっと桃子と二人きりで話がしたくなって」
「次の休み時間とか放課後はダメなの?」
「倫平や修がもし来たら話しにくいでしょ。それに今すぐ話したいの」
私はしばらく考えていたけど、出しかけた教科書やノートを再び机の中に戻し、ニッと笑うと、
「行こ」
と椅子から立ち上がった。