紅館番外編〜大公爵結婚騒動〜-1
『うぅぅ〜〜〜〜ん………』
白竜館の自室で唸っているのはご存じ、紅館の主人であるウェザ大公爵だ。
最近良く唸っている彼だが、今回の悩みの種はデカさが違う。 いつもの約6倍だ。
ウェザを苦しませているのは一枚の手紙。 この国の王様からの手紙。
内容は…王様の一人娘のエレン姫との結婚を(ほぼ強制的に)頼んでいる。
普通の人間なら、姫との結婚は大喜びだろう。
エレン姫はとても美人で器量良し。 さらに王様には子供が姫しか居ないため大陸の王の次期後継ぎも約束される。
しかし、ウェザは元より今以上の権力も財産も欲しく無いし、何よりウェザにはもうシャナが居るのだから結婚はしたくない。
『紅様、馬車の支度が出来ましたが…その、申し訳ございません…』
白い髪の青年が部屋に入ってきた。
事の発端はこの青年、ハイネルシスの想い人、クリス姫を助けたことである。
そのさいに国王は私が願い出るや否や、直ぐ様行動に移られて姫は極めて短期間で牢獄から解放された。 その時はとても感謝したが…まさか結婚のためだったとは…
『道理で王様ハッスルしてたわけだ…』
はふぅ〜と溜め息を吐き、部屋を出て馬車へ向かう。
とにかく、さりげなく断るのだ。
王様からの申し出は断りにくい種類に入る。 何故なら、断れば王様の面子に関わるからだ。 ましてや姫との結婚を断れば王様だけでなく姫にまで恥をかかせることとなる。
どうやろうか? と考えながら歩いていると、シャナを見つけた。
窓の掃除中のようだったがすぐに私を見つけて駆け寄ってくる。
『紅様、お出掛けですか?』
『あぁ、王宮へ用があるからね。
…今夜は遅くなるから、先に寝ていていいよ。』
最近、シャナは私の部屋に引っ越して来た。 私とシャナの関係が紅館の皆に公認されてきたし、もっと一緒に居たい二人の気持ちが一致し、同室同寝具となったのだ。
『はい…行ってらっしゃいませ。 紅様。』
お辞儀をして、ニコリと微笑んでくれるシャナ。
うむ、なんとしても断らなければ。 決意を新たにし、馬車へと乗り込んだ。
『うむ! 変わりなきようで何よりじゃ、大公爵!』
玉座に座っている少し白髪混じりの金髪をした王が愉快そうに言う。
それほど豪華ではない王の間だが、長い歴史があり、いつもは好きなのだが今日は違った。
『ははっ…陛下、来て早々なのですが、お話が。』
『承諾してくれであろう?』
うっ――
王はとても穏やかな笑みを浮かべている。
だが、目だけはしっかりと私を見据えているのだ。
『…私はまだ若輩者ですので…』
『500年も生きているのに若輩と? では、50歳の余は子供かの。』
ううっ――
『いえ…そういうわけでは…
ただ、エレン姫が反対なさるかと…』
『姫は大喜びであったぞ。』
頬に汗が流れた。
不味い、完全に結婚ムードだ。
どうしようかと考えていると、王が不満そうな表情をしだした。
『それとも…何かの?
姫では不服かの?』
『い、いえ! 滅相もございません!』
『では、良いではないか。 大公爵よ。』
一転してこれ以上は無いと思えるほどの王の笑みに、私は何も言えなかった…