揺り椅子-2
ファンから『ステラが産気づいた』と連絡が入ってすぐ、アースとキャラは転移の魔法陣を使って来城した。
出産は巫女長で医療魔術のエキスパートであるミヤが仕切り、数人のメイド達がそのサポートにあたる。
勿論、ギルフォードは立ち会いを希望しステラを励ます役だ。
残りの国王ラインハルトや、アース、キャラは駆けつけたはいいが部屋の前でソワソワしたりするしかやる事がない。
まあ、ソワソワしていても邪魔なだけなのでラインハルトは仕事に戻り、キャラもそれを手伝おうと2人で執務室に向かった。
ちなみに、アースはベルリア、エンの魔導師トリオで何やらコソコソしていたが……まあ、良い。
「キアルリア似の子が産まれるといいな」
ラインハルトは報告書に目を通しながらニコニコ話した。
ステラはキャラに似ている子が良いと言っている。
「私に似てたらギルフォード兄様にも似てますし、ラインハルト兄様にも似てますよ?」
父親のギルフォードとしては何となく微妙な気持ちだが、キャラの言う通りキャラ似=ギルフォード似=ラインハルト似だ。
「所で、名前は決まったんですか?」
「うむ。男の子ならランスロット、ミドルネームはオーウェン。女の子ならジェノビアでミドルネームはキャロラインにするよ」
「あら。私と同じミドルネームですか?」
「キャロラインはオーウェンのマスターだろ?ファンを支える人物になって欲しいんだ」
オーウェンはファンの守護神だった魔獣……そして、そのマスターである召喚師がキャロラインだ。
2人共にファンを守った英雄である。
それを忘れないように……これから先、王家のミドルネームはこれにすると決めた。
「成る程……良い名前ですね」
「だろう?」
ラインハルトは目を通した報告書に判子を押してキャラに手渡し、満足そうに笑う。
そんな作業も直ぐに終わり、夕食時になった。
ステラの陣痛が始まってから既に10時間はたとうとしている。
ミヤは『出産なんてこんなもんですわ。気長にお待ちになって下さいませ』と言っていたが、やはり心配になってくる。
部屋の中からはステラの苦しそうな声が響いているので尚更だ。
ステラのあの小さな身体で小さな命を守り、今産み出そうと苦しんでいる……もし、自分だったらこれに耐えられるだろうか?
キャラが不安になるくらい大変そうだ。
その時、ドアが開いてミヤが顔を出した。
同時に赤ちゃんの泣き声が漏れ聞こえ、待っていた面子は顔を輝かす。
「母子共に健康ですわ。驚いて下さいませ、なんと男女の双子ですわよ?」
ミヤの報告にラインハルトとベルリアは握手を交わし、アースとエンはハイタッチ。
キャラは目の前のミヤに抱きついて、お疲れさまとその背中を叩いた。
「赤ちゃん達を産湯で綺麗にして、ステラ様の産後の処置が終わったらお会いできますわ。それまでもう少しお待ち下さい」
そう言ったミヤは部屋に戻り、入れ替わるようにギルフォードが出てきた。
「おめでとう!ギル」
ラインハルトはギルフォードをしっかりと抱いて労をねぎらう。
何も出来ずに励ますだけは、何よりも精神的に堪えた筈だ。