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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』第10話-15

「「………」」
 結花と航は、連れ立って家路を辿る。何となく無言が重いと感じるのは、桜子と大和のやり取りを目にしてしまったからだろう。
 お互いをいたわりあい、思い遣っているその姿…。とても美しく、そして、羨ましいものに見えたのだ。
「片瀬」
「ん? どしたの?」
「いや、その。この辺り、けっこう暗いから」
「え…」
 言うや、航は、とても大事なものを手にするかのように、結花の右手を優しく握ってきた。
「え、あ、え?」
「手、繋いどいたほうが、いいかなって…」
 振りほどかれるかな、と懸念はした。しかし、それ以上に、結花にもしものことがあったらという思いが航の中に募って、そういう行動を取らせていたのだ。
「そ、そうよね。そのほうが、ア、アンタが、迷子にならないで、すむわよね」
 航の懸念したようにはならず、むしろ、結花はその手に力を込めて、強く握り締めてきた。華奢な(特にお胸が)少女としては、なかなか強い握力だ。それに、バットを相当に振り込んでいるのだろう、掌にできたマメの感触が、とても固い。
「わたしの手、マメばっかりで、あ、あんまり女の子っぽくないでしょ?」
 それを結花も分かっていて、熱くなっている頬を見られないように、やや俯き加減に歩きながらそう言う。
「……繋いでても、嬉しくないんじゃない?」
「そんなことない」
 結花の言葉に対して、航は即座に真面目にそう応えていた。 
「いっぱい練習してるんだって、わかるよ。野球が好きだって言うのが、ものすごく伝わってくる」
「そ、そう?」
 野球から思考が離れない航の物言いは、相変わらずだった。それが可笑しくて、結花は口元を思わず綻ばせた。心配、というのが先にたっているのであろうが、朴念仁を地で行く航が、こうやって手を繋いでくれているという、嬉しさもある。
「俺は、こんな手が、好きだ」
「すっ……!?」
 不意を付くような、航の発言であった。
(す、好きって言った? いま、コイツ、好きって言ったよね!? あ、でも、手が好きって、手、手…手かぁ…でも、わたしの手だし……好きって、ええっとぉ!?)
 結花の思考が大混乱を起こし、せっかくの手の感触も忘れてしまうぐらい、体中が沸騰してしまった。
(い、意味深なのは、ホント勘弁して……)
 結花はもう、自分自身が航に好意を寄せていることを自覚している。失恋して間がないばかりにも関わらず、気持ちの変化をしてしまった己を忌むがゆえに、大和に対して見せていたときのような、あからさまな行動は取れていないが、航の一挙一動に心を動かされているのは、もう隠しおおせない。
 しかも、航も航で、思い出したように、結花に気のあるような行動なり発言なりするものだから、その度に胸が疼き、ときめく感情に揺さぶられてしまうのである。
(でも、好きって、わたしからは、言えない……)
 それが破れてしまったら、結花はもう立ち直れないと自分で思っている。
 大和に失恋したダメージが、それほど大きくならなかったのは、航がいてくれたからだ。いつか彼が言っていた“壁になるから”という台詞は、別の意味でも結花を護ってくれていた。
 その“壁”が崩れてしまうことが、結花はいま、何よりも怖かった。
(好き、なのに……言えないよ……)
 恋にどこまでも臆病な、純情そのものと言った、そんな様子の結花であった。


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