8 竜騎士の団長-1
見張りがドラゴンと思ったのも無理はない。
暗緑の分厚い鱗に覆われた身体は、ナハトより数倍大きく、集まってきた兵達は、飛竜の大きさに息を呑んだ。
エリアスでさえわずかな驚きを浮かべている。
飛竜の騎手が、鞍から飛び降りた。
通常、飛竜の鞍は背の上部につけられるが、これは大きすぎるため首の付け根につけられている。
「ジェラッド竜騎士団長、ベルンハルト・ドラバーグと申す。突然の来訪を失礼いたした」
冑を脱ぐと、精悍な男の顔が露になった。
カティヤの義兄ベルン。当年とって30歳。
硬い黒髪は短く刈り上げられ、貫頭衣のマントを着てもわかる筋骨たくましい体つき。
赤銅色の肌と濃い眉の顔立ちは、飛竜使い一族の特徴がよく現れている。
色白でパッチリ目が大きく童顔な義妹と、まるで対照的だ。
冑はカティヤと同じ、顔の上半分を覆うものだが、額の部分に炎を象った紋章が印されている。
炎を信仰するストシェーダ国の紋章だ。
「兄さん!」
駆け寄るカティヤを見つけた途端、険しい表情が安堵に和らぐ。
「なぜここへ?連絡が行っているはずでは……」
妹の問いかけに、兄は顔をしかめる。
「来たさ。お前が魔眼王子の嫁候補に選ばれたなどと、とんでもない手紙がな」
「え!?エリアスさまぁぁ!!??」
思わず振り向くと、エリアスは涼しい笑みを浮べている。
「そういえば確か、追伸部分にそんな事を少し書いた気がしますねぇ」
「王子といえど、カティヤが見も知らぬ男の嫁に、喜んでなるわけないだろう!連れ戻しに来た!」
怒りを露にし、ベルンはエリアスに詰め寄る。
「ちょ……兄さん!」
「まぁ、待ってくれ。手紙を書いたのはソイツだが、俺がアレシュだ」
突然の来訪者に唖然としていたアレシュが息を吐き、三人の間に割って入る。
「ともかく、立ち話もなんだ……応接間にどうぞ、団長殿」