8 竜騎士の団長-2
夜中の応接間にいるのは、当事者のカティヤ・アレシュ・ベルンと、エリアスの四人。
バンツァーは大きすぎてナハトの厩舎にも入れないので、そのまま裏庭に待機だ。
これが騎手なしで残るのかと、兵達は不安そうだったが、バンツァーは最年長の飛竜でよくわきまえている。
即座に大人しく身を丸め、目を閉じて眠っているアピール。
さすが。兄よりずっと大人だと、カティヤは胸をなでおろす。
「――そういうわけだ、兄さん。ここに来たのは私の意志ではないが、約束を反故にしたとあっては、騎士道にもとる」
手身近に、一ヶ月間こちらにいる約束を話した。
「そうか……で、カティヤはどうなんだ?」
重々しく頷いたベルンが、重ねて質問する。
「私?」
「お前は望んでここにいるのか?それとも、約束したから仕方なくか?」
「……」
アレシュ、ベルン、エリアス。六つの瞳に集中され、返答につまる。
「正直に言えば……」
ふと視線があったのは、黒と金の魔眼。
「……微妙なところだ」
曖昧な返答は、遠慮したせいではない。
自分でも仕方なくここにいるのだと思っていたのに、改めて尋ねられたら、はっきり答えられなかった。
今すぐにでも帰りたいのは事実だ。
けれどその一方で、もう少しアレシュと一緒にいて、彼自身の事をもっと知りたいと囁く気持ちがある。
「とにかく、一ヶ月たったらすぐに帰る」
「……それならいい」
ベルンが広い肩をすくめ、諦めの混じったようなため息を吐き出す。
「心配をかけて、すまなかった」
カティヤが謝る事でもないのだが、自分のために、兄は遠距離を飛んできてくれたのだ。
だが、続くベルンのセリフに、一気に青ざめた。
「ならば、俺もそれまで滞在させてもらう」
「な!?」
アレシュとエリアスも、目を丸くしている。
「しょ、少々お待ちを……兄さん!!」
そそくさとカティヤは兄を引っ張り、ヒソヒソ抗議する。
「迷惑ではないか!早く団に戻ってくれ!」
「め、迷惑!?兄ちゃん、お前が心配で三日も徹夜してきたんだぞ!!」
「そ、それはありがたいのだが……迷惑というのは、こちらの方に対して……」
血の繋がっていない兄が、カティヤは大好きだ。
異性として見た事はないが、妹想いで頼りになり、武人としても尊敬できる。
ただ……猪突猛進すぎる部分が欠点だろう。
だから宮廷で『居るだけでその場の温度が上がる男』などと囁かれるのだ。
そもそも、今夜の行動からしてそうだ。
手紙で居場所をわざわざ知らせ、しかも王家の城にいるなど『探して騒いだり、連れ戻しに来るなよ!』と暗に言っているようなもの。
普通ならこういう場合は黙って見守るか、外交などを使って穏便に探りをいれるのが定石。
それを兄は、空気を読まずに真正面から怒鳴り込んでしまったのである。
……外交戦略、ゼロ。