6 飛竜の親子 性、残虐描写-2
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「はぁっ!……はぁ……はぁ……」
脂汗を浮かべ、カティヤは飛び起きた。
「きる?」
ナハトが心配そうに顔を寄せ、暖かい鼻息がかかる。
「あ……あ、すまない……お前を寝かしつけるはずだったのに……」
頬の涙をこすりとり、両手でペチペチ叩く。
アレシュの城に逗留して四日目の夜だった。
寝付けない様子のナハトに厩舎で付き添ううち、自分が先に眠ってしまったらしい。
ここは暖かい地方だし、季節も初夏だから、毛布一枚でも風邪を引く心配は無い。
「きるるる……」
長い首を伸ばし、ナハトが厩舎を見回す。
急ごしらえといえ、飛竜にとって快適な厩舎に整えられていた。
天井も高く、羽根を伸ばすスペースも十分。干草も上等の品だし、餌箱には新鮮な野菜や果物が入っている。
はっきり言って、騎士団のストイックな生活より、格段にお姫様扱いされているナハトだ。
「アレシュ王子の計らいといえ、賓客待遇をされているなぁ」
苦笑し、ザクロを一つとってやった。
「あまり贅沢を憶えると、帰ってから辛いぞ」
とはいえ、自分と王子の妙な賭けに、ナハトをつき合わせてしまっている負い目もある。
言葉を喋れなくとも、パートナーたる飛竜の心境はだいたいわかる。
多分、ナハトはホームシックを起こしているのだ。
「きる……」
硬い鼻面で、そっと頬をつつかれた。
飛竜の方でも、パートナーの感情には敏感だ。
「……ああ。お前と初めて出会った日の夢を見たんだ」
ちっとも帰ってこないカティヤを心配し、兄が探しにやってきたのは、あのすぐ後。
ボロボロの妹を見て、何があったか察知した兄は、急いで人目につかないようカティヤを連れ帰った。
そして、母がカティヤの身体を洗っている間に、あの子竜も連れ帰って来たのだ。
まだ巣立ちできる歳ではなく、あのままでは死んでしまうと判断しての事だった。
ナハトと名づけられた子竜は、里で育てられる事になり、やがてカティヤのパートナーとなった。
母から、ナハトを見るたびにカティヤの傷が開くのではと、心配していた。と告げられたのは、その時だ。
笑って、もう気にしていないと嘘をついた。
見え透かれていただろうけど。
あの日、カティヤとナハトは互いに大切なものを失った。
一生消えない傷を刻み込まれた、悪夢の日だった。
顔の筋肉を動かし、無理に笑う。
「良いほうに考えよう、ナハト。お前に会えた日だよ。悪い事だけの日じゃなかった……」