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魔眼王子と飛竜の姫騎士
【ファンタジー 官能小説】

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3 稀代の竜姫-3

***

「もっと真剣に考えろ」

 アレシュが眉を潜める。

「五秒しか待てない貴方にも、問題がある」

 無茶な言い分に、思わず魔眼を間近で睨んでしまった。
 だが、危険なはずの瞳は、王子の意思が伴わなければ、何の威力も与えないらしい。
 金色の細かい模様が刻まれた魔眼は、普通の人間と同じように……普通より、やや熱っぽいものを込めて、カティヤを見つめていた。

「……」

 恋人同士のように至近距離で見つめ合っても、照れよりこの魔眼を見つめていたい気持ちが勝つ。
 これで酷い目にあわされたのに、とても美しくて、目がそらせない。
 それだけでなく、やはりどこか懐かしい気さえする。

「どこかで……?」

 見覚えがあるのだ。とても親しい何か……

「……………………あ」

 カティヤの喉から小さな声があがる。

「思い出したか!?」

「ナハトだ!!」

「……は?」

 眉を潜める王子と裏腹に、喉につっかえた小骨が、すっきり取れた気分だった。

「ナハトの目にも、薄いがこんな模様が刻まれていた……というより、飛竜の目にはどれもある。見覚えがあるわけだ」

「……」

 唐突に、視界がクルンと上向いた。
 柔らかな寝台へ押し倒された身体を、のしかかった男の重みが更に沈める。

「ショック療法という手もあるぞ」

 危険な低い声が、耳元に囁かれ……


「うああああああああああぁああーーーーーーーーーーっ!!!!」


 カティヤの意志と無関係に、絶叫がほとばしった。

「っ!?」

 驚いたアレシュの顔が、見る見るうちにぼやけていく。
 両目からボロボロ涙が溢れ出て、耳の上を伝っていった。
 両腕で顔を隠しても、なかなか止らない。
 切れるほど唇をかみ締め、嗚咽を無理やり飲み込む。

 泣くな!泣くな!!私は竜騎士だ!!
 もう野盗に負けたりなどしない!!何も怖くなどない!!!

「……冗談だ。悪かった」

 身体から重みが消え、重苦しい沈黙があたりに満ちる。

「お、王子……」

 顔は隠したまま、何度も息を整え、情けないほど小さな声でやっと口にした。
 口にするのは耐えがたかったが、これを聞けば開放してくれるだろう。
 茶番はもう沢山だ。

「貴方の探し人であろうとなかろうと……そもそも、私は傷物です」

「傷?」

「……子どもの頃、野盗に陵辱されました」

「……」

「これで気がお済みですか?アレシュ王子」

 残っていた涙を袖で拭き取り、視線をそらして深紅の天蓋を睨みつける。

 花嫁は処女でなければ……などと、近頃ではあまり言われないが、犯罪者に陵辱されたとあらば話は別だ。
 なによりカティヤの身体がもう、異性として触れられるのを拒む。
 だから常に武装し、周囲から女性と意識されないよう、武人として振る舞ってきた。
 今まで、アレシュの密着に耐えられたのは、性的な欲望を感じなかったからだ。
 他人のそういった空気を読み取る事に、すっかり過敏になっていたが……
 拉致するまでの執着を見せながら、アレシュから向けられるのは、おどろくほど純粋な愛情だけだった。

「……」

 王子の沈黙を了解ととり、あまり力の入らない腕で支えながら、よろよろ身体を起こした。
 徒歩で一ヶ月の距離も、ナハトで飛べば、わずか数日だ。
 休暇はふいになってしまったが、天災にあったとでも考えよう。

「……?」

 手首を掴まれ、カティヤは顔をしかめる。
 醜聞が広まらないか、心配でもしているのか……。

「誰しも間違いはあります。このまま帰らせ頂ければ、今回の事は他言しないとお約束しますので、ご心配な……く……?」

 とても柔らかく、抱きしめられていた。

 こんな事に経験が浅いカティヤでにも、どれだけ慎重に……傷つけまいと気づかっているかが、ひしひし伝わってきた。

「……カティヤなら、それだけでいい」

 掠れた声で、訴えられる。

「だから、もう二度と、置いて行かないでくれ……」

 まるで力の込められていない抱擁は、昼間の激しいそれよりも、もっと効果的にカティヤを呪縛した。


……厄介なくらい、強力に。



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