男友達-8
遠くで沙織と笑い合っている大山倫平を見ると、目から涙がジワリと滲んできた。
「私、大山くんのこと傷つけちゃった……」
泣くのをこらえて下を向いてると、土橋修はのんきな声で、
「あー、あいつは打たれ強いから大丈夫だって」
と、ポンと私の背中を叩いた。
けれど、そんな優しさが余計に私の涙腺を刺激した。
「どうしよ……」
私はほとんど言葉にならないような枯れた声を出して土橋修を見た。
「……別にそこまで気にすることねえって。でもさ、申し訳ないって思ったんならもっと話してみろよ。多分沙織が倫平を好きになった理由がわかると思うぜ」
彼の言葉に私は再び沙織達の方に目を向けた。
沙織達はいつの間にか、防波堤の上に登って腰掛けて楽しそうに話をしていた。
「間に合うかな……」
「大丈夫だって! あいつは単純だから、お前が話しかけたら喜ぶぞ」
土橋修は、目を細めて笑った。
その顔を見ると安心して小さく頷いた。
ホッとした途端に急に冷たい風が吹いて、私はブルッと身震いをした。
「なんだ、寒いのか? そんな薄着してっからだぞ」
土橋修は呆れた顔をこちらに向けた。
私は薄手の深緑のカットソーを、土橋修はやや厚手の黒いパーカーを着ていた。
「だって、海に来るなんて思わなかったもん!」
「誰だよ、海に行こうって言ったのは……俺か」
土橋修は、髪の毛をワシャワシャ掻いて小さく舌打ちをした。
「そろそろ本格的に寒くなってきたし、沙織達のとこに戻って帰らない?」
寒さを一旦意識すると、それがずっとまとまりつき、私は体を縮こませながら自転車にまたがってペダルに足をかけた。
空を見上げると東の空には星が瞬き始めている。
すると突然頭上に何かがバサッと落ちてきた。
慌てて落ちてきた物に手をかけてから後ろを振り返ると。
「寒いんだろ、着てろ」
土橋修は白いロングTシャツ姿になって自転車にまたがっていた。
「え……でも……」
私はみるみる顔が赤くなっていくのを感じた。
「いいから。俺はそんなに寒くねえし。なんならこれも飲め。まだ少しあったかいから」
少し照れくさそうな顔をして、彼はそう言うと飲みかけのぬるくなったお茶を渡してきた。
私はドキドキしながら受け取ったペットボトルを見つめた。
これって、アレだよね……。
間接キスだと意識すると、さらに体が熱くなる。
沙織とはジュースの回し飲みなんかはしょっちゅうするくせに、相手が土橋修だと緊張してペットボトルをなかなか口に運べなかった。
「おい、汚くないからそんなにためらうなよ。傷つくなあ」
土橋修は苦笑いをしながら私を見た。
「そんなつもりじゃ……」
私が慌てて否定すると、彼はニヤリと笑って、
「何? もしかして間接キスとか思って照れちゃってんの? お前も意外とかわいいとこあるんだな」
と、私の頭を軽く小突いた。
「違うよ!」
私は勢いのままぬるいお茶を一気に飲み干し、手に持っていたパーカーを乱暴に着た。
そんな様子を見ていた土橋修は小さく笑うと、
「じゃあ、あいつらのとこに戻るか」
と、駐車場の方へと自転車を漕いだ。
手まですっぽり隠れたパーカーの袖をコッソリ眺めてみる。
洗いざらしの洗剤の香りと彼の匂いが混ざったパーカーに包まれると、心臓はこれ以上ないくらいにバクバクと激しく動いて、今まで感じていた寒さがどこかへ飛んで行ってしまった。