男友達-6
私は彼が言っている意味がわからず、急に歩き出した背中を追いかけるのて精一杯。
状況が飲み込めないまま、なんとなく土橋修の真似をして自分の自転車に乗り込むと、彼はスイスイ自転車を漕ぎ、駐車場から少し離れた所にあるものすごく汚い公衆トイレの所へ向かった。
「石澤、このトイレの脇にチャリ隠せ」
トイレのすぐ後ろは松林になっていて、その木々の隙間から先ほどの防波堤に抜けることができる。
パキパキと乾き切った枯れ枝や雑草を自転車や靴で踏みつけながら、言われた通りに目立たないように停めた。
「ここなら気付かれず見渡せるな」
「ねぇ、何がしたいの?」
鈍感な私も、なんとなく土橋修の目的がわかってきたけど、確認のために口に出して質問した。
「あいつら、どんな風にイチャイチャすんのか興味あるだろ?」
「ちょっと、やめなよ!」
「大丈夫だって。バレねえから」
土橋修は悪びれもせずにニカッと笑うだけだった。
「信じらんない……」
私は冷めた視線を土橋修に投げかけた。だが、それに臆することなく彼は、
「だってよ、あいつら付き合った日にキスしたって言うから、どんどん先に進むかと思ったら全然なんだと。キスだってその一回きりだって言うし、なんかじれったくてさ。こういう場所で二人きりになれば盛り上がるんじゃねぇかなって思ったんだよ」
と、いたずらを企んだような顔つきで言った。
「ねぇ、私だけでも帰りたいんだけど……。寒くなってきたし……」
私はどうにも気乗りがしなくて、帰る言い訳を訴えてみるけれど。
「おっ、手を繋いだぞ。見てみろよ」
と、全く耳に入ってないようで、ワクワクした顔をこちらに向けるだけだった。
沙織と大山倫平は先程までは少し離れてじゃれあっていたが、やがてじゃれあうのを止めたかと思うと二人は距離を徐々に縮め、沙織は自分の右手を自然過ぎるほどスマートに大山倫平の左手に絡ませて手を繋いだ。
大山倫平は身長が180センチくらいもあるし、沙織も165センチとスラッと高いので、悔しいけれど、すごく絵になっていた。
そのまま二人はあてがないように防波堤の脇を歩き始める。
後ろ姿しか見えないので表情はわからないけど、二人がどんな顔をしているのかは容易に想像できる。
日中の暖かさとはうってかわり、少し肌寒い海風があの二人をより密着させているような気がした。