精霊人-1
「ファンだぁ〜!!」
カリーが甲板で両手を挙げて大歓声をあげる。
船の上で2日過ごし、船旅にも飽きてきた所だったのだ。
その横でポロは少し背伸びをして、噂のファンの全貌を見る。
「ほれ」
そんなポロを後ろからひょいっと抱き上げたゼインはいつものように彼女を肩車した。
ゼインに担がれるのにすっかり慣れたポロは、ゼインの頭に手をついて海に目を向けた。
海の中から大きな山がどーんと生えていて、その周りをぐるりと原生林が囲んでいるように見える。
島と言っても端から端まで目視じゃ見えないし、一周するには馬で3日はかかるらしい。
「ファンは海底火山が盛り上がって出来た島だ。約1年前の魔物軍団との戦いの時に、ファンの守護神が死火山にしたらしいがな」
ゼインとポロの後ろからスランが説明しながら寄ってきて、ポロを持ち上げる。
「!?」
「そんなチビじゃ肩車したって良く見えねぇだろ?」
背の高いスランは軽々とポロを肩に乗せてニヤリとゼインを見下ろした。
そのセリフと態度にゼインはビキッと額に青筋を立て、人馴れしてないポロはビシッと固まる。
「誰がチビだ!誰が!!」
「ああ、すまん。一部規格外の大きさだったか」
さらっと言ったスランの言葉にゼインの青筋が益々盛り上がり、カリーはぺろっと舌を出した。
「てっめ!!カリー!!何をべらべら喋ってやがる!!」
ゼインの怒りの矛先はカリーに向けられる……当然の事だ。
「あはん♪ちょっとした寝物語?気にしちゃダメよぉ♪」
掴みかかってきたゼインをひらりとかわしたカリーは、いつも通りの彼女。
スランが絡んできてから少し様子がおかしい、と感じていたゼインは怒りながらも安堵する。
やっぱり、どんなに迷惑でもカリーはこうでないといけない。
「待てっ!!」
「待たないよん♪」
毎度お馴染みの追いかけっこが始まり、ポロは小さく息を吐いた。
「ははっあいつら面白れぇな」
スランは2人を見ながら笑い、そんな彼をポロは不思議な目で見つめる。
スランの事は昨夜カリーから紹介された。
フリーの傭兵であちこち回っているらしく、先日長い契約が切れたので休養がてら平和なファン見学だそうだ。
そして船でカリーを見て、気に入って、誘って……カリーは応えた。
納得いかないしムカつく。
カリーを引き止めないゼインも、スランを受け入れたカリーも、カリーを手に入れたくせにゼインとじゃれる2人を見て笑ってられるスランも、何もかも。
「声、出ると良いな」
モヤモヤしているポロを見ずに言ったスランの小さな声に、ポロは少し驚く。
悪い人では無いのかもしれない……じゃなければカリーが「一緒に行こうよ」などと誘う筈が無い。
ただ、何となく底知れぬ寒さを感じるので、ポロは固まったままだった。