精霊人-7
(何よぅ?カリオペで呼ぶの止めてよね)
コソコソと話すカリーにスランは憮然とした顔で聞いた。
(何やってんだよ?せっかく2人きりにしてやったのに)
スランは自分と違う道を選んだカリーがどうなるか見たい。
だから、スランが掻き回してギクシャクしてしまった雰囲気を帳消しにしようと、わざと2人きりにしたのだ。
なのに何故、余計ギクシャクしているのか……ワケが分からない。
(……あんたとキスしたかって聞かれて……キョドった……)
カリーの答えにスランは思わず天を仰いだ。
カリーが好きな人としかキスしたくない事も、キスをしたら嘘がバレると思い込んでるのもスランは知っている。
しかし、ゼインは前者しか知らないので、カリーとスランがキスしたと知ったら誤解するに決まっているじゃないか。
結果、ゼインが2人に遠慮してカリーに近づかなくなり、カリーはそれに悶々とする図式が出来上がる。
(……迂闊者……)
(誰のせいよぉ〜)
確かに、無理矢理唇を奪ったのはスランなのだが、上手くあしらえなかったのはカリーだ。
2人は盛大にため息をついて、とりあえずこの妙な空気をどうにかしようと思案するのだった。
ファンに上陸した一行は、まずは情報を集める事にした。
同行するスランにも事情を話し、協力してもらう。
スランは特に驚く事なく快く承諾する。
そもそも、スランはポロを監視する為に居るのだ……驚かないのは当たり前だ。
「じゃあ、ファンで一番人が集まる城下町だな」
何度かファンを訪れた事があるスランの提案により、4人は城下町に移動。
宿屋に荷物を置いてから行動開始、と思っていたのだが。
「うわわわわっ!!ヤバっ!!皆、避けてっ避けて!!」
城下町のメインストリートに響く叫び声。
と、同時にぼにょにょんぼにょにょんという間抜けな音。
そして、慌てて逃げ惑う人々。
「何だぁ?」
騒ぎの元はなんだ?とゼインが少し背伸びして、カリーが近くの木にひょいひょいと登る。
「わぁ♪水が転がってくるよぉ」
「水が?」
「転がる?」
カリーの報告にゼインとスランは顔を見合わせた。
ぼにょにょんぼにょにょん、という間抜けな音はどんどん近づき……。
「うおっ?!水がっ!!」
「転がってる!?」
間抜けな音の正体……それは本当に水だった。
しかし、水と言うにはちょっと……いや、かなり変だ。
馬なら1頭丸々飲み込む程の大きさの水の塊が、ぼにょにょんと波打ちながら近づいてくる。
「でえぇっ?!」
逃げれば良いのに、ゼインは背中のバスタードソードを抜いて構えた。
それを見たカリーはスランに合図し、彼はポロを抱き上げて近くの屋根まで跳び上がる。
暗殺者は身の軽さが売りだ。
超エリートのスランならポロを抱えてでもこのぐらいは余裕。