精霊人-12
「ケ〜イ〜」
降りてきながら怒りを含んだ声がケイを呼ぶ。
その声を聞いたケイはビシーッと背筋を正した。
赤いドラゴンはケイに向かってグパアッと口を開ける。
その喉の奥には炎がチロチロと燃えていた。
ケイ以外の4人は固まったまま、ゴクリと生唾を飲む。
「ボクが居ない時に、許可が出てない魔法は使っちゃダメって……言ったよね〜?」
ドラゴンはその風貌とは裏腹に、間延びした喋り方だ。
ただ、怒っている事は良く分かる。
「いや……だって、近所の子供らがねだってさ……水のボール作ったんだけど制御出来なくて……クインが止めようとしたんだけど、逆に飲み込まれちまった」
えへ、と照れ笑いしたケイだったが、ダラダラと冷や汗が流れていた。
「えへ、じゃないよねぇ?キミが不祥事を起こすとボクが責任取るって分かってやってる〜?」
「お、落ち着こう!!な?!」
「問答無用!天誅!!」
がぷっ
大きく口を開けたドラゴンはケイを丸のみにしてしまい、口からはみ出た足がバタバタ暴れる。
「ごめんっごめんなさい!!もうしませんっ!!ってか熱っ?!」
ドラゴンの口の中で暴れるケイを、街の人達はクスクス笑いながら素通り。
どうやらこの恐ろしいやり取りは日常茶飯事のようだ。
その証拠に、街の子供達はケイを無視してドラゴンの尻尾によじ登って滑り台にして遊んでいる。
「よいしょっと」
そのドラゴンから男が降りてきた。
赤い髪にオレンジの目、中肉中背……ジーンズに柄Tシャツのうえからフード付きの黒いコートを羽織っている。
「なんか、うちの弟子が迷惑かけちゃってごめんね〜?」
男は間延びした喋り方でペコリと頭を下げた。
どうやら喋っていたのはドラゴンではなく、この男だったようだ。
「ボクはエン=テイラー。ファンの宮廷魔導師やってま〜す」
男、エンの自己紹介に4人はあんぐりと口を開けたのだった。
(ねぇ……魔導師ってあんなでいいの?)
(いや……どうだろう?)
(だって、魔導師って普通はもっと物静かっていうか、頭良さそうっていうか……どっからどう見てもチャラ男じゃない?!)
魔導師とくれば魔法使いの中でも最高ランク……ローブを着た年寄りのイメージなのに、目の前に現れた男エン=テイラーは若い。
更に、ジーンズに柄シャツって……あり得ない。
「あはは〜聞こえてるしぃ〜」
エンは笑いながらドラゴンに合図して、ケイを吐き出させた。
「うえぇ〜…キモチ悪ぃ〜」
「これに懲りたら言う事聞いてよねぇ」
ケイを吐き出したドラゴンはくるりと宙返りして、人間の赤ちゃんぐらいの大きさになる。