THANK YOU!!-4
「・・何の用ですか」
何を言いたいのか流石に分かってはいるが、一応聞く。
後輩だとなめられないように、堂々とした態度で、低い声で。
もしかしたら、この態度が悪いのかもしれない。相手を下手に刺激している。
今回も、頭に血を登らせて叫び続かれた。
「(・・まるで、クレーマーみたい)」
小さなことをグチグチと狂気を起こしながらも自分に叫び続け、自分には非がない、正論だと訴える企業の厄介者。クレーマー。
まるでその集団に放り投げられたかのような気分だ。
ただ、ここから逃げ出すと後々が面倒だし、しかも自分が言葉を出すと余計に呼び出しが長引く。ここは、素直に受け流してひと段落したら帰ろうと考えていると。
「・・・っ、聞いてんのかよ!!」
そんな叫びと共に、秋乃の右側から細くて黒いものが飛び込んできた。
それが何か悟る前にお腹に強い圧迫を感じ、身体が勢い良く飛ばされ横に転がる。
瞬間的に閉じた目を開くと、目の前に見えるのは屋上の床の色。そしてじわじわと広がるお腹の鈍い痛み。手で押さえていないと余計に痛みが増すような気がして、自分の精神的な保身の為に右手でお腹を庇う。
そんなことをしている内に自分を蹴り飛ばした黒いニーハイの足が目の前で止まった。顔を上げて、キッと集団を睨みつける。
「なんなの、お前。何睨んでんの」
「雅弥君と仲良くしてんのが悪くないとでも思ってんの」
「馬鹿じゃない?雅弥くんはねぇ、後輩がほっとけないだけなの。アンタなんか好きになるわけ無いでしょ。」
「つきまとうのいい加減にしてよ」
次々とぶつけられる容赦ない言葉に、秋乃は何も答えない。
無表情を装っているつもりだが、見る人が見れば分かるだろう。秋乃が怒っていることに。
理不尽な言葉に、朝仕舞い込んだ苛立ちが顔に出てきてしまう。
眉がピクピクし出すのを、止められない。だが、クレーマーである彼女たちは気付いていないようで今だに好き放題言っている。
「(・・こいつら・・)」
殴り返そうかとも思ったが、自分にとって何も利益が無いのは目に見えている。
それどころか、彼女たちは教師に、暴力を振るわれたと告げ口をするだろう。そんなことをしたら多勢に無勢。秋乃の言葉なんて誰ひとりとして聞いてくれないまま、停学処分を受けるだろう。
下手したら、特待制度が取り上げられてしまうかもしれない。この学校の特待制度は大学受験の内申に大きく関係している。こんな一時の為に、自分の将来を棒に振りたくない。
そう考えていると、ずっと黙ったまま睨んでいた秋乃が気に食わなかったのかもう一度蹴りがお腹に入った。
一瞬、目の前が真っ白になってから鈍い痛みを訴えているお腹に強い痛みが走った。