危険な忘れ物2-1
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(やっぱりここも売り切れか…)
すっかり空になった棚を見て恵子はため息をつく。
今日は恵子が大ファンのとあるアイドルグループのCDの発売日。
色々と忙しくうっかり予約を忘れていたので、当日お店に買いにきたのだ。
しかし、お目当てのCDは売り切れだった。
仕方なく恵子は数軒のショップを回っていた。
(あーあ。どうしよう)
がっくりと肩を落とす恵子だったが、あることを思いついて急に顔を輝かせる。
(そうだ!あそこならあるかも!)
恵子はいつも徹と一緒に降りる駅を、今日は一人で降りる。
徹の最寄り駅にあるCDショップは大手で、フロアも広く入荷数も多いと聞く。
逸る気持ちを押さえきれず、早足で恵子は棚を探した。
(あ、あったぁー!)
思わず駆け寄りCDを、ひし、と胸に抱く。
会計を、済ませて店を出ようとした時、恵子は後ろから声をかけられた。
「恵子…ちゃん、だよね?」
振り向いた恵子の目に、見知らぬ男性が映った。
男は長身で細身。長く伸ばされた前髪のせいでその表情はほとんど伺い知ることは出来ない。
「え…と?」
(なんか、気持ち悪い。何?この人…)
あからさまに怪訝な顔をする恵子に男は口元を緩める。
「…徹の兄の悟(さとし)です」
悟。恵子は何度か徹の家で遭遇したことがある。
しかしそれはいつも一瞬の出来事で、部屋に入る後ろ姿をチラッと見かける程度だ。
こうして、まじまじと見るのは今日がはじめてだった。
「あ、こ、こんにちは」
恵子はペコリと頭を下げた。
「今日は一人なんだ?」
「あ、はい。ちょっとCD買いにきたんです」
「そう。今日うち来るの?」
「あ、今日は…」
恵子は用事がない時は大抵徹の家に行く。
お金がない高校生ならば、ごく自然のことだ。
しかし、目の前にいるこの兄は自分のことを、どう思っているんだろう。
また来た、などと正直よく思われていないかもしれない…
「あ、今日は行かないです」
「珍しいね。用事あるの?」
「そういうわけじゃ…」
悟は恵子の心を見透かすように言った。
「別に遠慮しなくていいよ。親も仕事でいないし。もうすぐあいつも帰ってくるし、寄っていきなよ」
恵子は迷った。けれど、せっかくお兄さんが言ってくれたことを無下に断るのも気が引ける。
「ありがとうごさいます。じゃあ、お邪魔します」