危険な忘れ物1-1
彼氏の徹(とおる)の部屋に入った途端、恵子(けいこ)はベッドの上に押し倒された。
「ちょ…ちょっと、待ってよ」
起き上がろうとする恵子の身体を徹は上から押さえつける。
いつもの爽やかな表情とは一変して、その目は欲情でまみれている。
二人は高校一年生。
入学してすぐ、恵子は徹に一目惚れした。
大好きなアイドルに似ているその容姿。
笑うと見た目より幼く見える表情に一瞬にしてノックアウトされたのだ。
告白も恵子からだった。
恵子も美人で目立つので、二人はすぐに付き合い始めた。
「いいだろ?しよ?」
徹はいつも自分の部屋に入るとすぐこんな風に恵子を押し倒す。
それが嫌だと言ったら嘘になる。
しかし、恵子にはもっと二人で色んな話をしたり、DVDを見たりしてまったり過ごしたいという思いもあった。
その日も徹は恵子の制服を取り去ると、あらわになった裸体にむしゃぶりつく。
キス、胸、下半身。一通り愛撫をほどこすと、己の欲望に避妊具をつけて、愛液でぬらついている恵子の中に腰を落とす。
恵子にとって徹ははじめての人だった。
初めは痛くて仕方のなかった挿入も、付き合って半年もたてばしっかり順応する。
「…あっ、気持ちいいっ」
「あんま声出すなよ、兄貴にバレるから」
徹の両親は共働きで夕方のこの時間も家にはいない。
しかし徹の兄は所謂引きこもりで、今この瞬間もこの壁の向こうにいるのだ。
薄い壁の向こう、時折コトとかガタという音が恵子の耳にも届く。
いくら恵子が声を堪えてもベッドの軋む音で、兄には二人が何をしているか分かるだろう。
「ねっ…あたし、もうイキそう」
徹の兄の存在をひしひしと感じながら恵子が言うと徹も掠れた声で呟く。
「俺も…」
情事の後、二人は裸のままベッドでイチャつく。
恵子はこの時間が何よりも好きだった。
そんな二人の時間は無情にもあっという間に過ぎていく。
「あ、もう帰らなきゃ」
時計を見て恵子が言った。
恵子の家は門限が決まっている。
根が真面目な彼女は徹と付き合ってからも門限を破ったことは一度もない。
「え?もうそんな時間?」
徹も壁にかけてある時計で時間を確認する。
「――ほんとだ、早いなぁ時間が経つの」
ひどく残念がる言葉の響きに、恵子の口元から自然と笑みが零れた。