いちばん、望むもの。-1
2月12日、天気はリョーコー。
真夜中の2時に、俺は生まれた。
正確に言うと、創られた。
俺の世界は、一枚の「紙」のなか。
俺は、俺の世界に描かれた、ひとりの『きゃらくたー』。
俺を創ったのは、お絵描きが大好きな女の子。
決して美人じゃないけど、何となく素敵な女の子。
名前は、知らない。
でも、顔はよく知っている。
毎日、俺いるここをのぞき込むから。
俺のこと、お気に入り?
そいつは、俺に、名前をくれた。
俺の、居場所を創った。
俺の、友達を創った。
普通にしていれば何一つ不満なんて無いはずの世界を創った。
でも…。
俺には、彼女がそっちの世界で何してるのかが全部見えている。
彼女には、俺がこっちの世界で何してるのかは全部分からない。
俺が俺の世界で普段何をして、俺の世界で友達とどんな会話して、俺の世界で何を考えているかは、彼女には分からない。
俺は、絵の中の『きゃらくたー』にしか、見えてないから。
俺は、絵の中の『きゃらくたー』にしか、見えてないから…。
俺の気持ちは、分からない。
俺、絵だから。
俺って、変なのかな?
名前ももらった。
居場所ももらった。
友達ももらった。
こんなに幸せな、俺の世界を創ってもらった。
なのに…
まだ、何か望むの、おかしい?
また、何か望むの、ワガママ?
うん、そう思う。俺自身。
でも…。
俺、「彼女」に、惚れちゃったみたいなんだよね。
変かな?変だよな。
「絵」が、生身の人間に恋するなんて。
住む世界も違う人間に、恋するなんて。
しちゃったもんは仕方ないけど…。
気付いちゃったもんは仕方ないけど…。
それからさ、
毎日毎日、顔見る度にドキドキしちゃって、
やべェ、顔赤くなってない!?とか焦っちゃって、
あーそうだ、見えてないんだってホッとして、
…そうだよな、分かんないんだって肩落として。
馬鹿みたいだって、笑われるかな?
苦しい。すごく。
だってさ、
いくら想っても想っても想っても!
声が枯れるくらい叫んでも!
何とかして伝えようって色々試行錯誤しても!
…やっぱ、ダメ。
「こっちの世界」と「あっちの世界」、繋がらない。
友達は、諦めろって言った。
俺も、そうした方が良いって、分かってる。
分かってる?
分かってる!
だけど!