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White Night
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White Night-1

もうすぐ冬も終わるというのに、今夜も窓の外には綿のような雪が舞っている。おそらく、朝にはまた積もっているだろう。
僕は冬が嫌いじゃない。むしろ、20代を目前にしながらも雪を目にして心をときめかすぐらい、冬は好きだ──けれど。


どうやら、冬は僕のことが嫌いらしい。それも半端じゃなく。何故なら、僕の冬の思い出に、ロクなことがないから。いつも苦い記憶の傍らには白い妖精が何も言わずに踊っている。


何となく、窓を開けてみた。凍える大気が肌を刺す。
田舎丸出しの古臭い庭はもうとっくに白く染められている。普段は金魚が泳ぐ池も完全に凍りつき、生命の営みを伺い知ることは出来ない。
もしかして、僕は頭が悪いのだろうか?
僕は気が付くと、コートを片手に部屋を飛び出していた。


わかりきっていたことだ。
──寒。
僕は心の裡だけで呟く。マフラーくらいはしてくればよかったと思ったが、戻る気にもなれない。
コートのポケットに辛うじて残っていた小銭で缶コーヒーを買う。自販機のボタンを押す指が、小刻みに震えた。
交通量はほぼゼロに近い。いいことなのかそうでないのか、僕は思わず苦く笑った。
何も考えずにただ冬枯れの道を歩く。冷気という名の無数の槍が僕を刺し、吐き出す息は凍りつき、後ろの方へ流れていく。
気付けば、僕は一本の街灯の下に立っていた。なるほど、と僕は一人納得した。


光の衣を纏った天使が、空から降りてくる。そして、浮世離れしたこの光景の虜となる自分がいる。
5年前、死ぬほど愛したあのヒトが、僕の前から姿を消したときも、こうして天使の慈悲を乞いに来た。天使は何も言わずに僕を包んでくれた。優しく、そして、柔らかく。そのとき僕は、前が霞んで、彼らの姿が滲んで見えた。でも、涙は、凍った気がした。
今の僕を見て、この白い天使は、僕を笑うだろうか?仕方ない、と僕は思う。自分でも、見るに耐えないのだから。
苦しみも、悲しみも、切なさも、愛おしささえ、いつか熔ける日が来るのだろうか?きっと熔けたそれらの感情は、僕の全てを押し流す。
──その後は?
全てを失った僕には、一体何が残るのだろうか。


冬は、もうすぐ終わる。
冬が終わり、春がやってくる。出会いと別れ、芽生えと誕生の季節。
僕はそんなことを考えながら、純白の夜の、慈悲深い天使に背中を向けた。


〜END〜


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